ゲーム6:お姫様救出バトル④
何度か休憩をしながら勝太は負けん気という能力を使って必死に駆けていた。あと何分だ? もうすぐゴールじゃないか? というところで……ズタン! とコケていた。
「痛っ! んだよ……」
周りを見てみても、そこには何もない。
「え? どういうこと?」
痛む足をさすりながら、どうせならここで休憩をしようと思おうと思った。が……。
「ククククククハハッ、クハッ」
ククク、という妙な笑い声がどこからか聞こえるのだった。
「えぇっ、ちょ待てよ。何?」
誰もいないのに、勝太は空に問いかける。
「クク、ハハハハハッ、クハッ、ク、クク、ハッ、クク」
「待って待って待って、誰かいるのか? おい、な、止めろ? 誰かいるなら出て来いよ」
「クハハハハハハハハハハハハッハッハッハクハハハハハハハククハハ」
笑い声は収まらない。乾いた、男の、少年らしい笑い声。
ふと、伊織先輩の言葉がフラッシュバックする。
――時々鬼が出るとか言われてるらしいけど。ハハハ。
まさか、鬼?
と、ガサガサガサと岩の所に生えている木が揺れている。わずかに残った葉が次々と風に乗り、勝太の所へ飛んでくる。
「止めろっ! おい!」
思わず、俺は反対方面へ慌ててリュックを持って走り出した。が……。
「えぇっ! ウワァァァァァッ?!」
いつの間にか道の端にいたらしい。天然の登山道に積もった木の葉が滑り、勝太の体が浮いた。
「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
乾いた笑い声の響く山の谷底へ、勝太は真っ逆さまに落ちていった。
「クハハハハハハハハ」
と笑っていると、勝太は自然にものすごい怖がる。
女子にこれ言ってやろうかな、とも思った。弱みを握った感じが何か痛快だ。
足を掛けただけであんなに派手に転んでくれて、思わず笑ってしまったらここまでビビる。あいつにも弱点があった。
「クハハハハハハハハハハハハッハッハッハクハハハハハハハククハハ」
「止めろっ! おい」
笑いながら木を揺さぶっていると、いよいよ耐えかねたのか勝太はリュックを持った。コチラを向きそうになったから一度隠れて、笑い続ける。
と、ガサンガサンガサンとものすごい音が鳴った。
何か起こったか?
「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
勝太の悲鳴。悲鳴はだんだんと小さくなっていく。
少し嫌な予感がして健吾は飛び出した。
目を凝らしてみてみると、人間がゴロンゴロンと木に頭をぶつけながら落ちて行っている。
「え。嘘……マジか。え? 大丈夫なの、あれ。待って、ヤバっ……」
と、ズンという鈍い音がかすかに聞こえた。勝太は木に頭をぶつけて動かないでいる。
「は? おい、勝太、勝太、勝太……!!」
混乱で声も出ない健吾。だが、何かとんでもないことをしでかしてしまったということだけははっきりと分かった。
ウロウロとこの辺りを行ったり来たりしていた。
どうする、助けを求めるか。いや、でも伊織先輩が気付いてあがってくるか? いっそのこと俺が助けに行ったらいい話じゃないか。けど、それだったら遅れる。だからって友のことを見捨てるのか? いくら何でも勝負なんだからこれは行くべきか?
アワアワ、アワアワと健吾は考えた。
「やっぱ、助けに行くか……」
それでも、と健吾の中の天使と悪魔が格闘している。
「……おい」
「行くか、伊織先輩来るか? GPSで感知してもうじき来るかもしれんけど……でもあの先輩が来ないか。なら行くべき……」
「……この野郎」
「はっ?」
確かに下から声がした。しかも、思ったよりも近くで。
「健吾、お前何してくれてんだよ」
「勝太っ?! お前、生きてたか! 良かった」
「いやぁ、ちょっと気を失ってただけさ。何とか生きてるわ」
「いやぁ、ホントに。もしこんなところで死んだら俺どうしようと思ったぜ。ったく、心配かけやがってよ」
そう言って、健吾はボロボロの長そでシャツを着た勝太を抱きしめようと手を伸ばした。
「でさ、なんでこんなことになったんだろうなぁ?」
と、目の前の勝太の目つきが一変し、スッとかがんで、俺の足を持って、落ち葉の向こうへ投げ出すのにそう時間はかからなかった。
「ウワァァァァァッ?! 止めろぉぉぉぉぉ! 勝太ぁぁぁぁぁ!!」
ズガンズガンと体中が木の幹や枝に打ち付けられていく。奴の名前を呼んでも、返事はなく、登山道が見えなくなった。
ハァッ、ハァッ、ハァッと登山道を必死に走る弘人。
今日は、この陰キャがサッカーをしていてよかったと身に染みるエピソードとなりそうだ。
「待てぇぇぇ!」
後ろからやはり猛スピードで一樹が追ってくる。
麓まで落ちてから、必死に一樹と競争しながら駆け上がってきた。
「待つかぁぁぁっ!」
だが、この足ももう限界が近づいてきている、いや、とっくに限界を越した。慣れない山道。今頃あの二人はどうしているのだろうか。
だんだんと足の回転が落ちてくる。
「あぁっ」
そして、息が切れて足が止まった。
「早織キュンは僕の物だぁぁぁぁぁ」
気持ち悪いセリフを吐きながら一樹が迫る。ダメだ、抜かされる。もう頂上なんだから、ヤバいかも知れない……その時、弘人は必勝策を思いついた。伊織先輩は確かにああいったはずだ。
死なない程度に、と。
最後の力を振り絞って立ち上がり一樹の前に立ちふさがる。
「邪魔っすよ! もうあんた体力残ってないんでしょ? 道を譲れぇ!」
「譲るかぁっ!」
大声で言ったはずが心拍数のせいで弱々しいものとなってしまった。
「食らえっ!」
そして、一歩一樹に近づき、右足を大きく振り上げ、股間に命中させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます