ゲーム6:お姫様救出バトル③

 11:00

 やっとここでバトルが始まる。まさか、ホントに殴り合うとかないよね? でも、最後誰が我が妹の所へたどり着くのか楽しみすぎる!

 他の子たちどう思うかなぁ。一番最初に勝太君が言ったらみんなキャー! か? 弘人君は早織が何やってんのよって言う位か?

 トゥーと運転お疲れさまでしたの機械音が鳴る。

 アドベンチャーズの入口の前には山らしいレジャーな格好をした男四人全員が待っていた。ちゃんと約束を守るのは良いことだ。

「お、伊織先輩だ」

 彼らは駆け足で私の元へ寄って来る。

 しめしめ。彼らは全く、何も知らない。




 アドベンチャーズの中にあるハンモックの前に、一樹たち五人が集まった。

「諸君、これから、激レースを始める♬ 準備は出来てる?」

 全くこれからレースが始まるとは思えない軽快な声で、伊織先輩は言う。

「準備って言ってもね……」

「鬼が潜んでるってほんとですか?」

「さぁ、どうでしょねぇ」

「おい弘人、んな子供みたいなこと聞くかよ」

「はいはい。どっちでもいーの。ルールはもう分かってるよね? 取り合えず、あれ渡すよ。GPSのチップというか、発信機。万一遭難したら助けに行くからね。まあ私が気付いたらの話だけど」

 先輩は四角い鉄製の発信機をフードの元へ付けてきた。あまり違和感はない。

「一言余計っすよ。ちゃんと万一のために見といてくださいよ? 僕が死んだら学校中の小鳥ちゃんが泣いて、僕を追って旅立ってくるかもしれないし……」

「んなわけないだろが」

 分かっている。僕もそんなことはないと思っている。それでも、一度できてしまったキャラを変えるのはしないことにしている。

「ま、GPSも付けたとこでね、うん。……ヨーイドン!」

「えぇっ?!」

 と、健吾は猛スピードで山の方へ走っていく。

「え、もう行くの? ヤバっ、待てヤバい」

 続いて勝太が走っていく。思わず静止していた一樹もやっと状況に気づいて、急いで弘人を越して走り出した。


 取りあえず勝太についていけば何とかなるだろうと思い、落ち葉が積もった斜面を必死に上っていく。

 これは結構辛い。落ち葉がどんどんと滑っていく。勝太は木を器用に掴んでぐんぐんと公式の登山道へ上がっていく。健吾の姿はもう見えない。かなり早く行ったか、あるいはコースを外れたか……どちらにしろ、このままでは絶対に早織キュンの胸を射止めることは出来ない。

 意地になってバタバタと四つん這いで進む。隣の木をつかもうと片手を伸ばす。

 ――が。

「届かない! ウワァァァァァ」

 届かず、しかも両足の落ち葉がスルスルと麓へ向かって落ちていく。もちろん、それと同時に一樹も滑り落ちていく。

「助けてぇぇぇ!」

「えぇっ? どゆこと……うわ待て来るなぁぁぁ!!」

 下にいた弘人の腹に頭が思いっ切りぶつかり、二人はごろごろと振り出しへ戻っていった。




「助けてぇぇぇ!」

 特徴的な悲鳴に思わず下を向くと、一樹がアリがアリジゴクに落ちるかのようにズルズルと引き込まれていく。しかも、もうすぐ登っている弘人とぶつかる。

「うわ待て来るなぁぁぁ!!」

 そして、二人が絡まるように一体となって、悲鳴が遠くなっていった。

 助けに行こうか? と思ったが、麓には伊織先輩がいるし、今行っても勝太には何もできない。何より、このままでは舗装されていない道を突き進んでいる健吾に勝つことができない。

「頑張れよ、お二人さん」

 フッと呟くようにその場で言い、勝太は上へ上へと走っていく。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 五分くらい走ったがすぐに息が切れてくる。ピッチの上ではこれぐらいでは全く息が切れないのに。

 山とピッチはまた違う物らしい。それでも、行かないと先を越される。

 これぐらいならまだいけるだろうと自分を励ますことにした。

「行け、勝太。お前なら勝てる!」




「うぅぅぅ」

 やっぱり、しっかりした登山道で行くべきだったか?

 ここには二度ほど来たことがある。大体の地理は分かっている気がするからコースを外れて突っ走ることにしたのだが、今、健吾は早くも傷だらけである。

「あ、やっと」

 ここで、平地を見つけた。下を眺めてみると、既に高校を含めた町が一望できる。あと何メートル行けばゴールだろうか。

 勝太はああいう真面目なところがあるから恐らく登山道を使っているだろう。その前にどうにか……。

 茶を飲み、ガムを口の中に放り込み、慣れない山ですっかり痛くなってきた太ももをパンパンと叩き、再びそびえる落ち葉の山へ健吾は立ち向かった。


 そしてしばらく木を使って登っていくと登山道と合流した。

「少し楽していいかなぁ」

 健吾はそこに座り込んだ。

 明日は絶対筋肉痛だな。学校に行きたくねぇや。

 と、バババババと何かの音がする。あちらの方だ。

「嘘ぉっ?!」

 思わず健吾は叫んでしまった。それもそのはず、勝太がものすごい勢いで走ってきたのだ。まだ向こうの方にいて、あちらはコチラの存在には気づいていなさそうだ。

「どうする? ヤバっ、待て、抜かれる」

 と、伊織先輩の言葉が蘇ってくる。

 ――ついでに言うと、付いてくるライバルとかを乱闘してボコして蹴落とすって言うのもアリね。殺さない程度にどうぞ。

 さすがに乱闘はしないが、いいことを考えついた。近くにある岩に急いで身を隠す。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 勝太が近づいてきた。この岩を通り過ぎる! というところで……。

「ウワァァァァァッ?!」

 健吾はスッと片足を出し、見事に勝太は突如出現した障害物にすってんころりんとつまづいた。

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