Parola-24:絶句……そレは、いにシえより坐し遥か摩天楼に靡ク紫雲フりさけ見れバ相当数ノ想像の色とりどリなる紙片舞い吹雪く突風にまろビ辿り着キしはRGB溢るル華々が悉くを埋め尽くス約束のだイち。

「だいぶ憔悴が見られるけどねぇ……それにお仲間同士での感情揺さぶり合いのようなことをやられていたようで、心の防御壁的なものはもうボロボロのぐずぐずなんじゃないかとお見受けしますがねぇ……」


 相変わらず「余裕」という概念をカリカチュアライズしたかのような、金髪長髪ハシマの慇懃無礼挑発は、だいぶガタガタになってきて見えるこの「法廷空間」のぐんねりとした空気の中を軽やかに滑るようにして紡ぎだされてくるが。


「……」


 まっとうな軌道修正を図ってくれたことには取り敢えず感謝しておく。というかのっけからのこいつの「告発」がここまでの大渦を巻き起こすことになろうとは。まあ、それはそれ。結果オーライと、受け止めておくことにしておく。


「『言の葉の深淵』……『魂の殴り合い』みたいなことをのたまっていたが、まあその辺りも腑に呑み込み落ちた。ゆえに最後くらいは派手に暴れてやろうとも思っている」


 言葉の中身は大概感がもりもり込められてはいるものの、嘘偽りの無い言葉を腹の底から放つということ、そのことに一抹の清涼感を感じている俺がいる。ミササギ部長のこと、無藤のこと、その他諸々、あとは自分のことも「言の葉」に転換させて織り交ぜ飲み下した結果、いま俺は身体の内に血液のように巡る何らかの「力」みたいなのも感じている。


 大きく息を吸い込んで。俺は紡ぐ。顧みて省みての今のこの瞬間までを言の葉に託して。


「……感情を言葉に等価交換、単純にしてその最も難しいことを臆せず、衒わず、真摯に出来るのならば、出来たのならば。己の人生というやつは、もっと真っすぐに芯の入ったものになるんじゃあねえだろうか。もちろんそいつは並大抵のことでは無えし、紡いだ言葉には常に受け取る相手方というのが存在するわけで。各々の言の葉同士、共感共鳴することもあれば、反発反響が激しい場合もあるだろうけど」


 大概な台詞感はもう俺の血肉となってしまったようだ。今はさらにの「演説感」みたいのも含みながら。出鼻をくじかれたかのようなハシマ以下の面々の顔が嘲笑めいたものを浮かべていくが。人に見せるための表情も、あるいはその手段のひとつと言えるか。


「……けど、進化の果てに掴んだ、そして人間最大の発明であり、未だ進化深化の余地を涯てが見えないほどに内包した……この『言の葉』の力を信じるのならば」


 大仰な物言いは止まらないが、それでも俺も信じている。揺らせる。自分の底の底から湧き上がってきたものは、それは大脳通しても、声帯を通しても。変わらない「力」を有したまま対外に放てるはずだ。自分以外の、すべてのものに。


「未来は変えられる。いや、決まっている未来なんかはどこにも無えし、それは全宇宙の全存在が、瞬間瞬間で紡いでいくものであるからして。言の葉もその紡ぎの中のただひとつ」


そして他の存在たちへ影響を与えうることの出来る、貴重で稀少なひとつの手段。そうだ、ただの「手段」でもある。だが、ゆえに。


 ……こうまで揺らされる。


「はっは。ご高説ありがとうございますよ、カブラヤ殿。だいぶ意識がマクロまで飛んで、ははぁ、まあ面白くはありましたけれどそれは決して『interenting』の域を出ない感じのもので、『手の内』? 『暴れる』? まあまあその辺がキミの限界なのだなぁとの『残念』の感情が抑えきれませんねぇ……」


 ハシマもだいぶテンプレ化してきたじゃねえか。そしてこちらの言葉を聞いてくれているっていうこのガチ感。これが欲しかった。言の葉の威力というものは、お互いを認識して理解して、


 ……より増すものであるから。


 俺のスケール過多の演説は、ただの撒き餌に過ぎない。露払いだ、いつだって俺は。野郎の顔が分かりやすく歪む。御しやすい、とか思ってくれたんなら上々だ。お前の嘲りの感情とか、マウント取ってやりたいとか、その手の情動なんかを引き出せたのなら、俺らの相対距離は否応縮まっていてだな、互いの射程距離に、


 もう片足以上突っ込んでいるんだぜ。


「へ、へへへ……主将サンの言う通りがばいね……勉強もスポーツも何も出来んらワイらがあっぷあっぷ状態の青春の只中でようよう掴んだのが『言の葉』っちゃがりあ……うんどれら『持ってる奴』輩には、絶対分からんがぁるこつがあるとばいえるんね……ッ!!」


 息を吹き返したかのように見える子猿が、俺の左後方位置に付きながら静かに「札」を掲げる。その小さい長方形の真ん中には【土】の一文字。


「コポホホゥス……ま、ワタクシはですな、VもRも充実し過ぎているまである勢であるからしまして、しかして、そんなワタクシにおきましても、確固たる存在感を以てして精神の中央柱にどんとそそり立つがこの『言の葉』なんでございますのなってフォヌロポリティカww語ってますゾ、不肖ワタクシ、これ見よがしに完膚なきまでに語ってしまいましたゾ★ うぅん……しかして今ただ一つ、伝えたき言の葉は、我 等 言 友 永 久 超 絶 不 滅……」


 砂漠、右後方、【日】札、掲揚。この辺の描写はもう省く。


「なぁんか、おいしいとこばっか持ってくわなぁ……んでもってこれからミサも色々大変かと思うし、しっかり手綱持っとかなあかんで?」


 こぉんな風に、と殊更にわざとらしく隣の一ノ瀬の左腕に抱き着きながらも、その表情は今までにないほどの吹っ切れ方と、何というかの幸せそうなオーラに包まれているようにも、自ら発しているようにも見えたわけで。互いに身体を寄せ合いながら、俺の前方で掲げた「札」は【火】、そして【水】。


「オァウ……これぞ『愛』……言の葉イズ愛……コレが信実、ユエに真実……」


 左前方には、そんな本当に深いような言の葉を呟くようになった、最終人型決戦クローバーアフロの長大な姿が……ッ。その長い腕の先に掲げられたるは【月】。


 そして、


「わかってるし、そう!! そうですよそうなんですよっ、『愛』っ!! 愛なんてことはもう最初から分かってはいましたがねっ!! いま改めて言いたい、『愛は言の葉、言の葉は愛』……っ!!」


 左腕にVRとはとても思えないほどの熱と柔らかさが巻き付くように与えられてきた俺は必死でヴァーチャル下唇をヴァーチャル糸切り歯で噛み締めることでいなすことしか出来ない……揺らされない、とか言ってた気もしたが、何だったんだろうなあれェ……取り直す気もあやふやなままだったが、右手に掲げた【金】の札を隣に寄り添うミササギ部長の【木】と並べるようにハシマ向けて突き出す。そして、


「これが『手の内』。俺ら七人の苗字には『七曜』の部首がそれぞれ含まれていて、それを以てまあ何だ、合体技みたいなので取り敢えずお前らを屠ると、端的に申し上げるとそういう次第になります……」


 自分でもなぜここで改まったのかは謎だったが、とにかく紡ぐ、言の葉を。果たして。


「え? いやえぇ? そんな流れだったっけぇ? いやちょっとそういう展開は誰も望んでいなかったっていうか、はっきり不正解と言い切れるほどの確信はあるのだけれど、あれぇ? いや世間ギャラリーはこういうのを渇望していた感もあったりでええ……?」


 いきなり「困惑」からの「驚愕」に落とし込まれたようなハシマに同情の念は禁じ得ないと言えなくもなかったが、


 まあ最後くらいはそういうシメがあっての、そういうのも、まあいいのではないだろうか。これもまたひとつの「言の葉」の形……


 七人相違無き総意の超越微笑に、ヒィィとハシマ以下何名かが見てわかるくらいに感情を揺さぶられておるよ、そうだぜ、時にどうにも抗えないのが言の葉の怖ろしいところよ……そして揺らされて無防備に近い状態に陥ったのならば、お前が利かないと豪語していた「こいつ」も貫くだろうぜ……言ったはずだ、「未来は変えられる」ってな……


 自身に纏いつく超越感を何と表現してよいかは分からなかったが、言の葉以外の何かでも、俺らは繋がれたような気がして。「最後」を告げる言の葉を、俺は紡ぐ。


「ミササギ部長、例の切り札その七の使用を許可する」「はいですっ」


 言の葉は愛、乱暴に雑にまとめたような「言の葉」だが、何故かそう言い切られてしまうと清々しく、正解なんじゃねえかとも思わされてしまう。本当に言葉ってやつは不思議不可思議なもんだぜ……傍らの含み笑いを堪え切れなくなっているような御仁の上気した小顔を改めて見やる。


 言の葉イズラブパワー全開っ、とか呟く、やっぱりいつもの自分の速度、自分のやり方を貫き通そうとするその姿は俺の目には、眩しく映るわけで。ふいに思い出した、出会いから今までの様々なことが、ヴァーチャルじゃ描き切れないほどの鮮明さと繊細さをもって。


 いつも灰色に見えた思えた俺の頭の中の逐一に、豊かな色彩の連なり煌めきを、大胆な筆致にて刷き付けられていくのだった。言の葉、やはりひっくるめての「愛」なんだろうか、そんな滅裂でありながらも笑ってしまうくらいの騒々しさに、冷えた静寂に包まれた俺の大脳以下の全臓器が脈動のようなあたたかで緩やかな波に包まれていく……その、


 刹那、だった……


「……『愛されて、十六万戸』っ」


 とんでもない規模の白きいかずちが、仮想空間ごと破壊すんじゃねえかほどに、場にいる者すべてを呑み込んで。


 問答無用にホワイトアウトさせていくェ……うん……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る