Parola-14:実感……そレは、赫奕と屹立せシは林立萌ゆる草葉の揺らぎナぎ。
さて。
情報を可能な限り……しかしてまあ言うての取っ散らかり方なこともあって、本当に断片的なものしか、それも真偽いかほどなのかも掴ませて来ないものしか得られない状況下であるもののそれでも。
窺い知れたのは以下の些少なる事柄たちのみであり。
・体感型eスポーツ「KOTONOHA-Z」である。
・一チーム七名で行う団体戦である。
・ひとり七枚まで、「
・諸ルールは付与されていくものの、相手の「四十二感情」を揺さぶり、平常心から乖離させることにより相手を脱落へと追い込むことが基本ルールとなる。
・相手チームを全員脱落させるか、制限時間を過ぎてより多くの生存者を残していたチームが勝利となる。
・制限時間を過ぎて同数の生存者を残していた場合は、サドンデス方式となる。
うん、いや分からんな……
初出の単語があったり、知っているはずの単語をガタガタに組み並べているような感があったりで、肝心の「何をやるか」については、以前「言の葉部」を訪れたあの初っ端にミササギ部長と興じたあの「対局」とほぼ同等であることは分かったものの、「諸ルール」という聞き慣れない単語がやけに胡散臭い。
いや、それより何より「体感型」も大分ヤバそうな響きを有している。VR、あるいはAR、はよく聞く話だが、それに留まるということは全然なさそうで、もっと根源的な物理感、あるいはもっとあかん脳への直接的ダメージを食らわしてくるようなそれ系の奴を内包している可能性が無いとは全然限らない空気感なわけで。
いやあかん、だいぶ言葉がままならなくなって来ている。呑まれるな、状況に。このくらいは想定範囲内だったろうが。
「……ショービジネス的な色合いが、だいぶ強まってきたのかもだねぇ」
有無を言わさずこれに着替えろ、とこれでもかの黒服サングラスの係員と思しきこれまたこれほどのと思わされるほどのいかつき屈強男に促されるがままに、アリーナの裏手の廊下に並ぶ更衣室のひとつに押し込まれるようにして誘われた俺たちであったが。戦々恐々としていて然るべきこの場であろうはずなのに、いつもながらの涼やかな物腰で柔らかく対応している一之瀬はやはり大したものだと思わざるを得ない。平常心、基本とも言うべきそれを、こいつは自然にやってのけている。頼もしいとしか言えねぇ。そしてまたも着ていたサマーニットと水色のTシャツがするりと脱ぎ払われてその下に隠れていたしなやかな筋肉が無駄なく骨格に沿うかのように付いているガタイを見るにつけると、やはりこんなとこでくすぶってる場合じゃないだろとか余計なことを言いたくもなるが、それはやはりこいつにとっては余計なことなんだろう。いちいちそこに突っ込んでいくのはもう無粋だと俺は思い始めている。こいつにはこいつの歩き方、ってのがある。それはこの長くも無い期間、結構一緒につるんでいて分かってきた。だからもう今は頼れる仲間、といういささかテンプレで赤面なる肩書を勝手に付けるだけだ。そもそも俺が何か言えた身じゃあねえしな。
「な、何ばとらぃね、こいピッチリスーツはじゃッ!? こない見世物ばになりに来たわけじゃなかとらかがねッ!! 心外ッ……我心外也……ッ!!」
相変わらず何かに影響されやす過ぎる小五~中二辺りのメンタルを大脳の上書き不可の記憶領域に刻んでいると思しき子猿は、おそらく小児用だろう、真っ黒なウェットスーツ(ただ手先足先までを包む首から下全てを覆うあまり見たことの無いタイプの奴だ)を既に着込んでは姿見の前でキャッキャッと騒がしく、張り出したカチカチのリーゼントに真白き捩じ切りという首から上の昭和感とその下のレトロ
「コポフ……このチームの頭脳戦艦たるワタクシめには、およそあらゆる肉体的活動の類いは与えられるべきでは本来無いのでありますが……コポフフ、なかなかにこのフォルム……戦闘民族感が出ていてこれはまた、善き……ですかな……」
まあ何と言うか敵の親玉背後に控えし
「オッ、イェァー、コレを装着、ソレは祝着、オレは沈着、ヤレよ決着……」
そして長大な手足をリズムに乗ってるんだかそれにしては不規則に見えるこちらに何となく気障りという名の印象を刻ませてくるように蠢かせながら、例のクローバー型決戦アフロはこの二か月余りでさらに展開領域を増したうねくる毛髪暗黒空間の只中に浮遊しているかのようなアクの強い褐色顔にさらにカイゼル髭を要らん画竜点睛が如くに描き足してとどめにごついミラーサングラスを掛けての参戦となっているわけだが、何だろう、首から下の黒一色の素っ気なさに反比例するかのように取っ散らかった頭部パーツの諸々は、小二くらいの男子により飽きと悪ふざけとをハイブリッドして雑に作成されたアバター感をこちらに無駄に呈してくるようだ……だがその刻むライムに象徴されるように、日本語能力は急速に成長している。思わず唸らせられるほどの言葉選びもあったりで、意外と重要な戦力なのかも知れない……知らんけど。
と、誰もが望んでいないだろう光景を最間近で見させられていたわけだが、そんな辺りで気が付いた。
ミササギ部長……のド天然が、果たしてこの身体の線が浮き出てしまうスーツにも発揮されてしまうのだとしたら。
あかん流れではある。無論、スキャンしてトレースだとかをするわけだろう。直接的では無いにしろ、全世界に向けて放ってはいけない各種情報が爆散リリースされてしまうのを絶対に防がなければならない。曲がりなりにも彼氏的立場の俺としては。
インナーは勿論同封されていた。それを下に身に着けてから全身スーツの流れ、これは通常考えるに極めて自然で普通であろう。多分大丈夫と、思いたいが。とは言え脳も峰も規格外な御仁であるわけで不安は尽きない。無藤こういう時だけはきちりとやってくれよぉぉぉ……
「……」
自分の着替えもそこそこに、とりあえず他の奴らは置いておいて急ぎ辞すると廊下を小走りで突っ切り、隣の隣の隣の更衣室の扉を叩く。俺らの他には使用者はいなかったはず。部長の無防備な姿を誰かに晒すくらいならもう俺がいきなり室内に入ってしまっても良かったが、そこは御縄のことを鑑みて自重した。と、何やの、と無藤が俺と分かっていたのかくらいに即応にほんの少しだけ扉を開いてはくれるが。
ん? とあざとらしく小首を傾げたその小さく華奢な身体は同じく真っ黒なスーツに包まれていたが、起伏あり過ぎる御大と普段揃いの並びでいることが多いことから自然と起伏の乏しいタイプの御方と思い込んでいたものの、身体の線を否応強調するこのいでたちになると浮き彫りになるしなやかで流麗なラインに不覚にも目を奪われてしまって言葉も一瞬奪い取られてしまったわけで。そんな俺の毛ほどのリアクトなんかも余裕で拾ってくる奴だ。逆に自然な感じでミサならちゃんとインナー付けるよう注意したったから大丈夫やでんんでもそれでも押さえつけんのは十全とは言い難いかもやけどなぁとのこちらの視線とか思考なんてぜぇんぶ分かってるのやで的なねっとりとした流し目でこっちの目を覗き込んでくるのにはもう慣れているのでこちらも自然に流すようにずらし躱せた。とは言えその能力……とまで言うとかもだが、「察し力」とでも言うべき「感情の察知」は凄まじく鋭いものがある。それに加えてなまじのことでは動じない、と言うかその相手の言動なり何なりの裏、奥にある感情を鑑みて把握して、それによって理解・分析、ぶつけられる「言の葉」を自分で納得することで弱体化させてしまうというか。うまく説明は出来ないが、そのような言わば「タンク」的な役割と、全体局面を常にクールに見渡すことの出来る司令塔的な立場をさりげなくこなせるという、我がチームの主力級である。
が。
「サユキちゃん、このセンサーって二個余っちゃうんだけど、やっぱりここに貼るで良かった?」
その後ろのロッカーの陰からひょこりと姿を現したとんでもない稜線が俺から様々な思考をも奪い去っていく……いやちゃうてそれ耳の後ろぉ、という脱力した無藤の言葉がぶわと色々な良き香りが漂ってきた空間に虚ろに響くが。黒く艶やかなる張りつめて尚柔らかさを俺の全・視覚に訴えかけてくる双丘の頂点に貼付されし真白き円形シールが如き「センサー」が風も無いのに上下左右に揺れているよ素数以外の数字を数えて気を鎮めるんだ……
あわわわ、りょ、主将覗いちゃダメですよぅ……という聴覚からも感情を揺さぶって来る言の葉に予行演習以上の厳然たる「平常心確保」の高等心理テクニックを駆使し、何とかオートマチックに上がっていってしまう己の血流のギアを提げることには成功する。まあ致命的な間違いは防げたし良しとしようGPSでも探れないこの世界で最も重要なる位置情報も俺だけが得ることが出来たしな……ミササギ部長はこのド天然が最大の主砲と言っても過言では無いが、流石「言の葉部」の長たる存在でもあり多岐に渡るオールマイトな語彙能力も有しているのでその総合戦闘能力は非常に高い。頼れるアタッカーと言えるか。と、
ハッ、てゆーか自分こそなに股間にもりもり仕込んどんのや小学生かいなぁ、との無藤のいつもの嘲り突っ込みにプラスして、あは、りょ、主将もそんなおふざけすることもあるんですねっ、あ、もしかしてそれでこっちの緊張をほぐそうとしてくれたりしたんですか、だとしたら大成功ですよっ、との部長のいつもの甘い喰い付きが投げかけられるが。いや、え?
……何も入れてはいねぇぞ?
いや俺きちんとインナー履き込んできてるからな相当びっちりだったが、と言い掛けたがその前に俺のフラットな様子に何らかの違和感を感じ取った無藤の目線がまず俺の顔と股間との間を性急に行ったり来たりをしてからぴしりと固まってそのアンニュイ微笑を常に湛えている小顔から表情と血の気が同時に失われていく。片やその傍らの部長の真っ赤に火照った顔はいつも以上の蒸気でも噴き出しそうな上気さを呈して来ているように思われるが。
準備出来たら来いだってさ、という背後からの軽やかな一之瀬の声に応え硬直したままの二人を促し、廊下の片隅にて準備の整った面々と軽く視線を交わしながら頷く。何か変な空気になってるがここは一発、主将として鼓舞する「言の葉」を放っておくべきか。しょ小学生や無くて小学生の腕並みなんとちゃう? とかアバババ、ホグサレル怖イホグサレル怖イなどという不穏な囁きが漂う中、俺は吸気を腹の底、臍下まで落とし込むようにしてまず平常心を、そしてそれに絡みつかせるようにして昂揚と、そして柄には無いが「熱血」を組み込ませていく。
「ここまで来たらやるだけだ。『言の葉』を、ぶちかましてやろうぜ」
俺にしては結構キレよくキメられたとは思ったが、他の面子からの、お、おおぉ~といういささか気合の抜けたかのような掛け声に、何だよ、緊張するようなタマじゃあねえだろ、とのちょっとの不安感を得てしまうものの、どのみちここまで来たら本当にやるしか無いわけで。
妙に卑屈になったり腫れ物に触るようになったりしているメンバーを促しつつ、決戦の舞台へと、俺らは上がっていく。
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