第4話 胎動、そして任務

 特徴として大きな2つの塔を備えた、地を這う鉱石生物のように見える金属製の巨大な紫紺の城。


 内部構造、外装共にジェネレイザの取り扱うバネトレムスという魔力を多量に含む金属をふんだんに使ったそれは、折り畳んだ4つの足のように見える側面より内部へ繋がる太いパイプの数々が見えている。

 中央には青の正六角形の内側に歯車とダイヤのような縦長の菱型がデザインされた、国旗と同じマークが城の手前の電光掲示板で映されたり、城のあちこちに何かしらのエネルギーの通り道がありそこを光が行き交っていたりと、城と呼ぶには異質な形状をしている。


 これこそがジェネレイザの建国者にして統治を担う機皇帝ジェネルの住まう機皇城であった。

 内部は自動ドアの出入り口から早速十字の通路に分かれ、簡略化されたマークと矢印が示すそれぞれの方向の先にある部屋は別々の役割を担う。


 左側、拳同士を交わすマークが示す先はS〜Mサイズメカ専用の訓練場『可能性満ちる者の修練場』となる。

 ゲームの頃は出撃可能なメカに制限の設けられるデイリーマップの一種だった。

 プレイヤーのメカはそのデータのみを此処に転送されて、用意された複数のマップで戦う事となる。


 右側、VIPと表記するマークが示す先は来客専用の間であり、ジェネルや三機神が応対する、あるいはしなくてはならない客人の為に設けられたVIPスペースでもある。

 最大150人の収容を可能とする、人間のものに準じた豪華な寝室や食堂、大浴場など高級ホテルのように各種設備が整えられ、客人はそこで快適な時間を過ごした上でジェネル達とやり取りを行う事となる。


 そして、一番に重要になるのは真ん中の通路、国旗と同じマークが示すその先に広がる空間である。

 機皇帝の待つ大広間、『ギア・ホール』と呼ばれるその空間は、軍所属だけでなく一般メカにも開放されているが三機神の一角であるシアペルが常に監視をしているという前提を忘れてはならない。

 ジェネルに危害を加えるのは以ての外、この場に相応しくない者にはそれ相応の罰を即座に与えられる。


 その為、実力者である彼らもいつも通りの筈の足取りが重く感じる程緊張感に包まれていた。

 失礼の無い態度が何時でも出来るなどという保証は何処にも無い。誰かがしくじった場合誰がフォローしてやれるのか。


 そんな不安を募らせつつも彼らは『ギア・ホール』の出入り口となる扉前まで足を踏み入れる。

 レヴァーテに無茶を押し付けられたジャモラクも、一先ずは機皇帝との面会が先という事で同行していた。


 集団が扉前に立ち3秒程経った後、面会の時間を告げる様に彼らと機皇帝とを隔てていた扉は左右にスライドし開いていく。

 金で縁取られた紫のカーペットが奥へと伸びていき、その先の段差の最上段には無骨な玉座が置かれている。

 その玉座に黒紫の鎧を身に纏う男が座り彼らを見下ろしている。彼こそが機皇帝ジェネルその人であった。


 緊張を悟られぬよう、レヴァーテらは慣れたような足取りで段差の三歩前まで進むと横一列に並び、一斉に膝を付いて頭を垂れる。許可無く機皇帝の顔を見ないように彼女らは徹する。



「顔を上げてくれ。出来れば面と向かって話がしたい」



 が、すぐに許可が降りたことで今度は機皇帝の顔を見るに徹する事となった。

「良い面構えをしているな」などと高い評価の感想を集団の左端から述べられ、上機嫌になりかけるが、今は顔を上げる事だけを許された身。表に出すのは必死に我慢した。

 顔ぶれを一通り見た事でジェネルは話に入る。



「よく来たな。今回はどうした?」



 第一声として問い掛けられ、今回に於ける代表格となるレヴァーテが応じる。



「はい。今回の時空間異常を受けまして、御身のご無事を確認に参りました」


「そうか、それは心配をかけたな。この通り私は無事だ。私は、な。折角来てくれたんだ、今後の方針についてこの場で話そうと思うが、良いか?」



 機皇帝自らから話を聞けることに横並びになった面々は首肯で賛成の意を示した。

 元より勝手ながら此処に来た立場である為に機皇帝より話の提案を持ち掛けられるのは申し訳無さを感じる反面とても有り難い事であった。



「ありがとう、では始める。我々がこの島に流れ着きはや数日。此処が別世界の何処かで分かった以上、我々は外を詳しく知らねばならん。その第一歩として私は得られた情報を頼りにこの世界の暫定的な地図を作成した。これを見て欲しい」



 ジェネルが紫のコンソールを使い、マップを表示し拡大するとフリック操作で反転させる。

 現在地となる大きな孤島を中心に円形状に大海が広がっており、更にその先は2つに分かれた陸地に繋がっている。

 これが暫定版である故に、陸地の形状は途中から円形に沿って途切れてしまっているが。

 20分の1に縮めた縮尺で表示されているとは言え、この場に居る全員がその広大な陸地の規模を理解した。そのどちらもが大陸であると。



「ユニリィとメルケカルプの報告で既に海を越えた先の2つの大陸で合計5つの国家と27の都市を観測している。プラントを設けるとは言え、自国の生産力のみで賄えると甘く見るつもりは無い。いずれは何処かの国を味方に付けねばならんだろう」



 プラント建築の際に事前に海底の資源の種類とその量を調査している。

 広い規模に渡って、実に豊富な種類と量を近海に備えていると調査結果は示した。

 尤も空中プラントは好きに自身の位置を変えることが出来るのだが。


 だが、事態はその資源だけで賄い切れる程優しくは無いだろう。

 魔力による土壌汚染がこの一回きりとは限らないだろうし、観測した国家の戦力を把握出来ていない今、慢心は避けるべきである。


 それに、海の向こうは大陸である為、暫定版の地図を越えた先にも大小問わず国家が存在している事を失念してはならない。



「そこで我々は二手に分かれて2つの大陸に向かい近場の国から調査をする事にした。今は小規模の調査だが、メルケカルプを自由に動かせる余裕があると分かり次第、大陸を大幅に南下し規模を拡張し、何れは大規模な調査を計画している。リターンの大きい分各地で戦闘が発生し得るリスクも抱えるが、その時は戦闘のエキスパートたるお前達に活躍の場を設けようと思う。思うのだが――」



 そう言うとジェネルは少し黙し、この場に誰かが足りない事に気付いた。



「そう言えばイッテツ、お前の師匠はこの集まりには来てないのだな」


「既にご存知かと思いますが、土壌汚染の影響を受け枯れかけた花園ガーデンの復興作業に掛かり切りとなっています。落ち着くにはまだ暫く掛かるでしょう」


「そうか、ならこの場で伝言を頼まれてくれないか。いずれはお前の剣の腕も頼る事になる、と」


「畏まりました」



 この話はこれで終わりかと思いきや、ジェネルはまたしても少し黙したが、自身で素っ頓狂な事を考えていると気づいてしまったらしい。



「アペード・ラジーやディフォヌスは…収まりきる訳ないか、うん」



 どちらも本体がLサイズ以上である為、とてもじゃ無いが自分からは入ってこれない。

 パーツをバラしてこの大広間内で組み立てるという手もあるが、これだけの為には大掛かりが過ぎる。

 内心苦笑する頭を垂れたままの一同だが、この場に居ない者達も含め信頼されている事に深い安心感を覚えた。



「ではそろそろお開きにしよう。お前達への新たな司令は追って伝える。今日はもう明日に備えてじっくり羽を伸ばしてほしい。各自解散してくれ」





「どはーっ、緊張したなぁ」



 夕焼けが床も施設もメカをも赤く照らす頃に、機皇城の中央にある大きな両扉から外に出て、メインタワー周辺に戻った者達。

 ジャモラクが持っていた杖をほっぽり出して床に座ると最初に閉ざしていた口を開いた。

 緊張は抜けきっていないが、それを皮切りに次第に次々と言葉を発するようになる。



「…機皇帝陛下はおろかシアペル様までいらっしゃる場所。それ相応の礼儀と態度が求められるのは必然だ」


「そういうあんたも緊張が抜けていないな」



 マディスの指摘に恥じらうようにレヴァーテは伸ばした右肘に左手を当て俯く。強者の中の強者たる彼女ですらこのようになるとは、と一同は衝撃を受けた。



「…私だって平静でありたいさ。だが、あの場所だけは何時まで経っても慣れんのだ…!」


「仕方あるまい。我らとてこうなるのだ、どうにもならんさ」



 珍しく弱音を吐く彼女に、パンドレネクも同意を示す。メカに疲労という概念は無い筈だが、疲れた素振りを一同の多くが見せる中、一方でイッテツは一呼吸整えると、直様、灰色のコンソールを起動し、マップの表示された画面へと切り替えて画面内に表示された入力項目内に数値を入力している。

 エルドネーラがそれが、一部のメカ――この集団においては全員――にのみ許可されているワープポイントを使用しない転移の使用だと見抜き、声を掛けた。



「もう行くのか?」


「ああ、伝言を頼まれているからな。急ぎ師匠の元へ行ってくる」



 イッテツは振り向く事無く彼女の問いに応じると、メインタワー周辺から瞬間移動で姿を消した。



「要件は果たした事じゃし、明日からまた忙しくなる。今日はもう我らも解散で良いかの?」


「ああ、構わない」



 エルドネーラの問いにマディスが快く返事し、一同は解散となる。黄金のガイノイドと異形のメカがメインタワーから離れていく。

 一方でガスマスクの男はその特徴的な丸い背中をしているにも関わらず、抜き足差し足でメインタワーを北へ、つまり自身が所属する豪雪に覆われた崖地帯へ戻ろうとする。


 平時ならば問題は無いが、彼は自ずと約束を破ろうとした為に、笑顔のまま殺気を漏らすプラチナブロンドの少女に穂先を突きつけられて止められた。





 現ジェネレイザの南端に位置する第一次産業地パンベナット・スレーヴ。


 上から見て真円状に広がり、独自の四季を持つ8万ヘクタールの広大な陸地、その北側にはぽつりとガラスで覆われた大きなドームが存在している。

 此処こそが花園ガーデンであり、イッテツの師匠は現在この中で花を蘇らせるべく努力している。

 ドーム付近の芝生の上に座標を定め、イッテツの体が転送されてきた。彼は到着するや否やドーム内を外からくまなく見渡す。


 バンジーや向日葵、紫陽花にチューリップ等、季節感に統一性の無い、彩り鮮やかな花畑がドームの中に広がっている。

 しかし、今は既に解決済みの土壌汚染の煽りを受けて花の数々は枯れかけており、色合いはそのままに見るも無残な姿になっている。


 その花畑で一人、忙しなく揺れ動く桃の長髪の姿が見える。

 その髪の持ち主が中腰姿勢から立ち上がると、イッテツの姿を見て手招きをした。

 ドームと同じくガラス製である扉を開け、イッテツも花畑の中へと入る。


 背丈の低さはイッテツと比べるまでも無いが、向き合うと一層際立って見える。

 仄かに花の匂いの香る、多重円をその瞳の中に描く琥珀色の双眸をした少女がそこに居た。



「姿が見えたと思ったらやっぱり。手伝いに来てくれたのですか?」



 桜色の着物風のワンピースがよく似合う、腰に銀縁の黒鞘を下げたその幼い見た目の少女は《鋼刃閃姫》ウツギ・ムラサメと言い、イッテツの師匠その人である。

 背丈の長さでは2倍近く差を付けられて居るものの、華奢な姿でありながらイッテツの二回り上の実力を持っている。


 彼女はイッテツが来てから己の雰囲気を整えたらしく、ガラス越しに見た時は感じ取れなかった微かな重圧がイッテツに伸し掛かる。

 それでも、彼はその圧に臆すること無く受け答えをした。



「ええ、まあ。そんなところです。それと機皇帝陛下より伝言を預かっておりまして」


「急ぎの用なら今聞きます」


「では伝言から。近々実施する海を越えた先の調査計画を立てていて、いずれは師匠の剣の腕をお借りしたいと」


「陛下の命とあらば幾らでも。伝言はそれだけなのですか?」



 イッテツは首肯し、それを目で確認したウツギは周囲を見渡す。やはりと言うべきか、ほぼ全滅と言っていい程の惨状が彼女の視線の先にも広がっていた。

 それから再びイッテツに向き直ると、液状の中身をたっぷり入れたじょうろを彼に手渡した。


 微かに匂う刺激臭は明らかにただの液体では無いと示している。

 シャワーヘッドは既にじょうろの口に装着済みで、傾ければ何時でも使用可能だ。ウツギは次から次へ、ドーム内の箇所を指定する。



「ここと、そこと、それからこの部分と。それの中身を2秒程かけてやって下さい」


「自然由来の材料と魔法で出来た薬剤って奴ですか、これ」


「その通り。これの効果は実証済みなので、時間さえ大きく間違えなければ問題ないですよ。いやぁ、渡してくれたハーミット・クリフの変人共を少し見直しましたよ、私は」



 わざとらしく笑う彼女の口から、ガスマスクの男が統率する例の連中の名前が出てきた事で彼は愛想笑いをする。

 再び忙しない作業に戻る師匠を尻目に、彼はドーム内の奥にある一際大きな木に視線を向ける。

 残り少ない花びらを一つ、また一つと散らせていく桜と呼ばれるその木に確かな侘び寂びと衰弱している命を感じ取り、日が落ちて星空と月の光が外を照らすようになるのも気にせず、彼もまた精力的に人助けならぬ花助けに取り組むのだった。




 ジェネレイザの島への漂着から五日目。


 まだ日の出の真っ只中、朝靄の差し掛かっているという頃にユニリィ・ファクトリアの港は慌ただしくなっていた。

 それもその筈、今日はジェネレイザ海軍こと『スペード・ネイビー』の誇る二隻、LLサイズの船舶メカ、グレードA+である《エクリプスアーク》のヴィゴロントとガーフルードが出港する日だからだ。


 全長700m、全幅120mもの巨大な船体を持つ白銀の船。角を削った四角錐台のような形状の分厚い装甲で覆われたブリッジと甲板上に備える2基の二連装主砲、ブリッジを囲うように専用のスペースが用意された8基の自動機関砲と、側面や後方甲板にある内蔵された各種兵器を露出させる為のハッチが軍用艦船である事を証明している。


 それらは縦並びに港の外へ待機しており、側面にある、兵器用の二回り程広いハッチが大きな口を開け、埠頭へと舌のように長い連絡通路を伸ばしている。

 通路には支柱の類いが根本と先端以外には用意されていない。

 中央の耐久性も何のそのと言わんばかりに物理法則を無視した設計になっているのはこの船もまた魔力を使う船だからだろう。


 慌ただしくなっている主な要因はその通路にある。


 小さく箱分けされた上で大量に積まれた荷物を複数人で持ち運ぶ作業服に身を包んだ人形メカ、怪力を利用し大きな荷物を軽々運ぶ亜人形メカ、慣れたアーム捌きで重い荷物を運ぶ重機のような車両メカ等が次々と手数任せに通路の先端に積み荷を順番に持っていく。


 《エクリプスアーク》二隻の本体に使う補充用の動力源や内部のSサイズ補助メカが使用する為の新品工具やエネルギー補充装置などの積み荷を通路の先端へ載せると、ベルトコンベアの無い筈の通路が積み荷を本体へと運び込む。

 その速さは先端に置いた数秒後には既に通路の半分に差し掛かっている程にスムーズだった。


 積み荷は何もそれだけでは無い。元々船内に居るメカとは別に乗り込むメカ達が居た。


 ヴィゴロント側はジナリアとコルナフェルとパンドレネクが乗り込み、ガーフルード側はベルディレッセと球体を本体とする純白のSサイズメカ一機と看護服に身を包んだ顔の無い漆黒の亜人形メカの集団、非常にカラフルな外套に身を包んだ青年と顔の代替物らしき隆起を持つ金色の人型アンドロイドが乗り込む。


 全ての積み荷を載せ終わり、それが通路の5分の4を通過した所で通路は縮小を開始した。

 最後の積み荷を船内に運び込んだその20秒後に縮み切った通路も船内に収まりハッチはゆっくりと閉じる。


 そして、船は動き出す。

 一体一体が豆粒に見える程に遠い、一仕事を終え暫くの自由時間を得られた作業員達が手を振って見送る中、二隻の大型船は穏やかな水面を切りつつ二手に分かれて別々の目的地へと向かった。


 ガーフルードが東へと進路を切る一方、ヴィゴロントは速度を上げながら徐々に南下しつつ西へ向かう。

 時速35ktに突入するも船体は何事も無く、中で待機しているメカの船員はおろか待機中のメカにも影響は出ていない。


 都合の悪い物理法則を無視出来る設備を標準搭載している船舶の一種は何者にも悟られずに進み続ける。ジェネレイザ全域に渡って有効化のなされている認識阻害システムの範囲内を越えたとしても、二隻の白銀の船の存在に気付く者は居なかった。


 日が真上より少し手前まで昇った頃、ジェネレイザより500kmも離れた沖の上でヴィゴロントは静止する。

 甲板の上には、ジナリアとコルナフェル、パンドレネクが立っていた。



「それじゃあ行ってくるよ。良い報告を期待しておきたまえ」


「パンドレネクさん、それからヴィゴロントさんもお見送り感謝致します」


「お二人共、気を付けて」



 ジナリアは軽く手を振り、コルナフェルはパンドレネクと此処まで運んで来てくれたヴィゴロントに感謝を述べる。

 その直後、足のバーニアを展開し、現在地より更に西へ飛び去っていった。

 それをパンドレネクが見送ると、彼は銀色で縁取られたコンソールを開いてヴィゴロントの指揮システムに介入する。


 ジナリアとコルナフェルの輸送という一つの任務を終え、ヴィゴロントは次の任務である遠海の哨戒任務へとシームレスに移った。

 尤もこの任務を行うのはヴィゴロントだけであり、同じく要人の輸送、移動の中継地点となる役割を終えたガーフルードは一足先にジェネレイザへの帰路に付いているが。


 哨戒任務の為にパンドレネクに指揮の補助を任せ、一体と一隻が一つとなって監視網を敷くのだ。

 進路上にその為の光学兵器を海に撒きながら。



「それでは始めるとするか。ヴィゴロント、暫しの間よろしく頼むぞ」



 ヴィゴロントに声帯は無い。が、パンドレネクには潮の音が聞こえる中彼の返事が聞こえた気がした。

 それから5時間もの時が流れ――




「さて、この状況どうしたものか」



 ジェネレイザまで残り300kmに差し掛かった辺り。

 パンドレネクが甲板上にて補佐するヴィゴロントは既に敷いた監視網より反応を受け、その反応が進路上にあるからと進んだ結果、とある集団に出くわした。


 小さいながらもしっかりと作られているであろう一つの帆船を、取り囲う木造船三隻。

 木造船一つ一つが鉄で補強されており、所属を示す旗には黒地に髑髏が描かれている。

 座礁した訳でも無ければ波が無い訳でも無い。それでも沖で停まっている船の数々はトラブルの発生源と理解出来る。



「困った事になった、なってしまったな…」



 まさか向こう側から接触の切っ掛けを作られる事になるとは。陛下にどう報告するべきだろうか、と甲板のパンドレネクも、声を持たないヴィゴロントすらもそう思った。


 しかし、こうして目の前で発生するトラブルを放置する訳にもいかない。

 ヴィゴロントは静かにその船体を船の数々へと寄せた。

 ヴィゴロント側の認識阻害システムが発動している為、相手側からすれば白い濃霧から船体が飛び出して来る形になると気付かずに。


 何故こんな状況になったのか。

 それを説明するには、包囲されている側の船が此処に来る前に遡る事になる。

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