第三章 メグジス

第一話 好きな人

「よし。メグジスに着いたぞ!」


 次の日の昼過ぎに、俺達はメグジスに到着した。


「ここに来たのは一年ぶりだな」


 ケインはメグジスの街並みを懐かしそうに眺めていた。


「一先ず宿を探すか。そして、その後は裏組織の情報収集を軽くやっといた方が良いな」


 俺は、ハルスと繋がっているであろう裏組織について、ある程度知っておいた方が良いと思った。


「そうだな。この街にはやっべぇ裏組織があるって聞いたことがあるからな。多分それと繋がっているんだろう。因みにその組織に名前はない」


「名前がない?」


 裏組織にとって名前と言うのはかなり大切なものだ。特に大きな組織程、名前は他の裏組織を威圧したり、貴族の裏仕事を引き受けたりすることが増えるので、必要になってくる。


「まあ、名前がないと情報収集も少し大変になるな」


 組織に入る収入を上げるよりも、生存を優先する組織。めちゃくちゃ厄介だ。


「まあ、その裏組織は無理に滅ぼす必要はないしな」


 その裏組織によって、苦しんでいる人は沢山いるだろう。だが、ここでの俺の目的は、あくまでもハルスとネイルを殺すことだ。それを達成することを俺は優先する。まあ、やれるのなら潰すけどな。


「俺とノアで宿を取ってくる。その間にケインは情報を集めてくれ。くれぐれも無理はするなよ」


「無理をするなよって……森で散々無理をさせたお前が言える言葉じゃねーだろ」


「それをまだ引きずってるのかよ。時効だ。時効だ」


「昨日のことだぞ! 流石にその言い分は通らないぞ!」


 なんか最近言い争いばっかりしている気がする。だが、険悪な雰囲気はなく、軽口をたたきあうような感じだ。そして、その関係を互いに楽しんでいるのだ。


 その後、言い争いを終えた俺はノアと共に宿探しを始めた。


「ん~と……宿なら門周辺に必ずあると思うんだけどな……お、あった、あった」


 俺は程よい値段の宿を見つけると、中に入った。


「一人部屋を二つ頼む」


 俺は小銀貨一枚、銅貨六枚を宿の主人に手渡した。

 因みに部屋割りは俺とノアで一つ。ケインで一つだ。


「まいど。ほれ、鍵だ。明日の朝に返してくれ」


 宿の主人は明るい声でそう言うと、鍵を二つくれた。


「ありがとう。じゃ、ケインの所に行くか」


「うん」


 俺達は頷きあうと、宿を出て、ケインが向かった冒険者ギルドへ向かった。




 今、俺達は冒険者ギルドにいる。

 そして、目の前にはゴロツキどもが苦しんでいる。


「やっぱだめだな。俺みたいな成人したての人間が、ノアみたいな美少女と一緒にいたら絡まれる。上手い解決策はないものだろうか……」


 俺は顎に手を当てると、ため息をついた。


「美少女? ふふっ 嬉しい」


 ノアは嬉しそうに微笑んだ。


 今から五分程前の話だ。

 冒険者ギルドに入った俺とノアは、毎度の如くゴロツキに絡まれた。普段なら、俺に怒りを向けさせて返り討ちにしている、だが、それをする前にこいつらは――


「何ガキが入ってんだぁ~ いい女連れてさぁ~」


 パシャン


 何と、こいつらはノアに酒をぶっかけたのだ。

 酔っぱらっているだなんていい訳にならない。


「ブッコロス」


 俺はノアより先に怒りの感情をあらわにすると、ゴロツキ四人をマリアにすら非情すぎるという理由でやらなかった”鉄粒子内部破壊”を使った。これは口の中に大量に鉄の粒子を入れる技で、これによって与えられる苦しみは想像を絶するものになるだろう。


(それにしても何故こいつらにはこれを使ったんだ? この世の誰よりも恨んでいる人間の一人、マリアにすらやらなかったのに……)


 そう考えてみたが、実はもう答えは出ている。


(ああ、やっぱり俺はノアのことが好きなんだな。この世の誰よりも好きなんだな。だから、ノアを害されたことに最上級の怒りを感じたんだ……)


 俺はノアの横顔を見つめながらそう思った。


======================================

大変お待たせしました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る