第十一話 マリアフルボッコ作戦

 俺は、前にどうしても分からなかったことを聞いてみた。


「ああ、それはな。ガルド公爵の息子、ハルス様に怒られるのを回避する為だ」


「……は?」


 何故ここでマリアの婚約者であるハルスの名前が出てくるのか分からない。俺を捕らえると、ハルスに怒られるのを回避できる?一体どういうことなんだ?頭をフル回転させたが、全く答えが出てこない。

 俺が、必死にその理由について考えていると、ケインが遠慮がちに声をかけてきた。


「あ~考えてるとこ悪いけど、答えを言うぞ。この街にあった影の支配者シャドールーラーの奴隷売買を資金源にする案は、元々ハルス様が立てたんだ。そして、それを実行したのがマリア様ってわけだ。だから、マリア様は資金源が潰されたことに対するハルス様の怒りを、影の支配者シャドールーラ―を潰した張本人であるお前たちに押し付けようとしてるってわけだ」


「なるほどな……納得は出来るが、それって大事おおごとにもほどがあるぞ……」


 俺は、そのことを聞いて、頭を抱えた。貴族が、他の貴族の領地でここまで計画的な重犯罪を犯すのは、帝国の法で考えると、少なくとも十数年は牢屋に入る羽目になるだろう。そして、この犯罪の被害だが、影の支配者シャドールーラーの勢力が急拡大したのが三年前だと考えると、とてつもないものになるだろう。計画の為に殺した人間も一人や二人ではなさそうだ。

 それらを入れると、死刑が妥当になるくらいにはあの二人がやったことはヤバかった。


「だがなぁ……マリアはともかく、ハルスが金を集める理由ってなんだ?」


 ハルスは、あまり贅沢をする性格ではない。そんな奴が、多少のリスクをおかしてまで金を手に入れる理由が分からない。そのことをケインに聞いてみたが、分からないと言われた。


「一つ疑問が解けたと思ったら、また一つ疑問が生まれるとはな……」


 俺はそう呟くと、深くため息をついた。


「まあ、そう言うわけで、忠告はした。こっちはこっちで、お前の勝率が上がるように手を打っとくよ」


「ん? それはありがたいが、具体的にはどういうことを?」


「ん~とな。みんなの武器にちょっと細工をしてもろくしておこうかな。あとは、朝食に遅効性のバレにくい毒物を少々。と言ったところかな?」


 ケインはあくどい笑みを浮かべながら、実に素晴らしいことを言った。うん。それなら戦闘も楽になるだろう。


「分かった。ただ、俺はお前のことを完全に信じたわけではない。だから、細工や毒物はないものとして行動する」


 ついさっき会ったばかりの人を信じる訳にはいかないので、俺はケインの細工や毒物に頼った行動はとらないことにした。


「ああ、それで構わない。むしろ、いきなり現れた俺の話を完全に信じたら、正気を疑うぞ」


 ケインはそう言うと笑った。


「まあ、そうだな」


 俺も笑った。まるで、古くからの友人のように。


「それじゃ、俺はそろそろ屋敷に戻らないとな。仕事が大量にあるからな」


「分かった」


 俺たちは頷きあうと、それぞれ別の場所に向かって歩き出した。


「ノア、話にもあったように、明日、マリアをボコす」


「うん。あいつのしてきたことは許されるものではない。徹底的にボコす」


 俺とノアは向かい合うと、頷きあった。

 その後、俺たちはいつも泊っている宿に行った。ちなみに、宿の部屋はあれからずっと、二人で一人部屋を使っている。




「さて、ちゃんと作戦を考えないとな」


 部屋に入り、シャワーを浴び終えたところで、俺たちは作戦会議を始めた。

 まず、ノアがシュバっと手を上げて、口を開いた。


「はい。私が炎で焼き尽――」


「却下だ。そんなことしたらすぐに衛兵が来る」


 ノアの豪快な案を、俺は即座に切り捨てた。ノアは、自分の案が即座に切り捨てられたことに、しゅん、と落ち込んでしまった。


「あーすまん。きつく言いすぎた」


 俺はノアの背中を優しくさすりながら言った。


「「まあ、実は大まかな作戦は既に立ててあるんだ。まず、あの屋敷に入ったら、武器類は全て取られるだろう。武器類を入れることが出来るマジックバッグもだ。まあ、流石にあいつらにそれらを渡すわけにはいかないから、そう言ったものは全て古代大洞窟に隠しておくとしよう。あそこは誰も入ってこないから、物を隠すのにはちょうどいい。そして、屋敷に入った後、どこで戦闘になるかは分からない。だから、索敵はノアに任せる。ノアなら、遅れをとることはないだろう。あと、襲ってくるあいつの部下の相手も頼む。マリアは俺が捕らえるから。そして、捕らえたマリアは屋敷の隠し通路を使って古代大洞窟に連れて行き、そこでフルボッコにするという感じだな」


 俺は、今回の復讐作戦の内容を伝えた。それを聞いたノアは、「うん。任せて。襲ってくる奴らは私が殺す」と、力強く言った。


「ああ、それじゃ、明日は朝早いから、早めに寝るぞ」


 俺はそう言うと、ベッドに入った。ノアも、ベッドに入ると、俺の左腕を抱き枕にした。最初はドキドキしていたが、今ではもう日常として受け入れてしまっている。慣れって怖いものなんだなぁ……


「おやすみ、ノア」


「うん。おやすみ」


 俺たちはそう呟くと、意識を手放した。

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