第十話 裏切り

「ノア、さっきは随分と楽しそうだったじゃないか」


 俺は、冒険者ギルドの外で、にこやかな笑みを張り付けながら、ノアをじっと見つめた。


たまには強気に行動してみるのも悪くない」


 ノアは、ドヤ顔でそう言った。こんな表情のノアを見るのは初めてだが、結構かわいいものだ。今回は、

 かわいい子特権を使って、許してあげるとしよう。


「まあ、分かったけど、抱き着くのなら場所を考えてやってくれ。周囲からの視線が痛い。マジ本気で痛い」


 さっきの国宝級の剣がグサグサと刺さるような痛みはもう味わいたくない。うう……思い出したらまた痛みが……心にくる。


「まあ、取りあえず夕食を食べに行くぞ」


「うん。分かった」


 ノアにしっかりと説教(?)をした俺は、ノアと共に飲食店へと向かった。




「ん~今日の俺はミノタウロスのステーキセットの気分だな」


「う~ん……私はハンバーグセットの気分」


 俺たちは、それぞれ別々のものを注文した。街に来たばかりの頃は、何かと俺の真似ばかりをノアはしていたが、街での生活に慣れてきたのか、最近では自分で考えて行動することも増えてきた。

 自分で考えて行動すること自体はいいことなのだが、さっきのように勝手にどこか行ってしまうのは勘弁してほしいものだ。

 そんなことを考えていると、店員が食事を運んできてくれた。


 俺はナイフとフォークを手に取ると、ステーキを一口サイズに切り、ご飯と共に口に入れた。

 噛むたびに肉の中に肉汁が広がっていき、肉のうまみを存分に味わうことが出来るのが、このステーキのいい所だ。オニオンソースも、肉の味をより引き立ててくれるので、たっぷりかけるのがポイントだ。


 ノアも、ナイフとフォークを手に取ると、丁寧に切り分け、ご飯と共に口に入れる。


「ん、美味しい」


 ノアは、さっき大量に食べたのにも関わらず、どんどん口の中にハンバーグとご飯を運んでいき、あっという間に完食してしまった。


「相変わらず食べるのが速いな。ノアは」


 俺はノアの食べる速度にため息をつきつつも、ステーキセットを食べ終えた。


「よし、じゃあ宿に行くか」


「うん」


 俺たちは席を立つと、会計所で金を払ってから、店の外に出た。


「あの、すみません。ちょっといいですか?」


 店から出た途端とたん、いきなり藍色の髪を持つ二十代半ばの男性に話しかけられた。


「ん? 何か用か?」


 俺は少し警戒しながらそう言った。


「ああ、実は、お前たちがこの街の領主の娘、マリア様に狙われているということだ」


「な!?」


 いきなりあいつのことを口にされたことで、俺たちの警戒度はMAXになった。

 俺は、腰の剣に手を伸ばし、ノアは男性の首に手刀を当てている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。単刀直入に言うと、明日の朝、マリア様がお前たちを領主館に呼び出して、殺そうとしている。だから、今夜中にこの街から出てくれ」


 男性は、俺たちの行動に怯えながらも、周辺の人に聞こえない声で、そう言った。


「そうか……で、お前は何者なんだ?」


「そうだな……今はマリア様の諜報部員をやっている。あと、ここじゃ周囲からの視線もあるんで、人目の届かないところに移動しましょう」


「……分かった。ノア、手を下ろしてくれ」


 この男から、敵対心が感じなかったし、マリアがここまで回りくどいことをする意味はないと思った俺は、こいつの話を詳しく聞く為に、路地裏に移動した。




「よし、まずは名前を言うか。俺の名前はケインだ」


「ああ、俺の名前はカインだ」


「私はノア」


 俺たちは、少し硬い雰囲気の中、自己紹介をした。


「はい。まず、俺はこの前バッグをひったくって、お前たちを路地裏におびき寄せた人です」


「あ、ひったくり犯もグルだったんだ」


 あの六人と、ひったくり犯が仲間だったのは完全に予想外だった。まあ、よくよく考えてみれば、ひったくり犯が本気で逃げないのは不自然だ。


「ああ、それで、マリア様の部下の中で最強だった六人の暗殺者が死んだことで、マリア様は焦っている。そして、お前たちを捕らえる策として、お前たちを領主館に呼び出して、不意打ちしようと企んでいるんだ」


 それを聞いて、俺は小さくガッツポーズを取った。あいつは、俺にとって、一番都合のいい行動を取ろうとしてくれている。


「なるほど、それで逃げろというわけか。だが断る」


「な、何故!?」


 男性は、目を見開くと、正気を疑うような視線を向けてきた。


「ん? 俺はあいつに復讐したいんだ。徹底的に潰す」


 俺は、狩りの前の狼のような眼で、そう言った。


「お、おう。まあ……分かった。その眼ならマジでやりそうだな」


 ケインは、俺の様子に若干引いていた。


「てかさ、何でお前は俺たちにその情報を教えたんだ?」


 はたから見れば、数が多いマリアの方が勝つと思うだろう。それなのに、俺たちの味方になろうとする理由が分からない。


「ん? だってお前らみたいな善人に剣を向けられるわけねーだろ。それに、お前らと戦ったら多分俺は死ぬ。あの時だって見逃されたようなものだし……」


 ケインはそう言うと、少し体を震わせた。


「分かった。最後にもう一つ、何でマリアはそこまでして俺を捕らえようとしてくるんだ?」


 俺は前に、どうしても分からなかったことを聞いてみた。

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