第六話 助けを求める声

「あーめんどくさかった」


 俺は目の前に広がる灰を眺めながら、そう呟いた。

 俺が今倒したのは、ちびっ子スライムの群れだ。名前の通り、体長は五センチほどと、かなり小さい。危険度も、ならE-と、魔物の中では最弱クラスだ。だが、それが数百体にもなると、話は変わってくる。

 ちびっ子スライムは、〈溶解〉のスキルを持っている。〈溶解〉は自身に触れた人の皮膚や服を軽く溶かす程度のスキルなので、皮膚にくらっても数日で完治するくらいには弱い。だが、それを何度もくらうと流石にヤバイ。特に、同じ場所を何度も溶かされると、服には穴が開くし、体は最悪神経を溶かされる。

 俺は、最初は剣界で対処していた。だが、ちびっ子スライムが小さすぎるせいで、剣界をい潜って、俺の元に来るやつが結構いた。その為、俺は〈創造〉でよろいを作ってから〈操作〉で鎧を動かすことで上に飛ぶことで、攻撃が届かない上空からちまちまと攻撃することにした。「そのまま飛んで逃げろよ」と思ったそこの君!俺が逃げずに戦ったのは、他の冒険者がこいつらに襲われるのを防ぐ為だ。決して、”逃げる”という選択肢を忘れていたわけではないからな!


 まあ、あのちっこいやつを頑張って倒した結果が、目の前に広がる灰の平原ということだ。


「しかもこいつらって、倒したところで灰しか残さないからな……」


 倒すのに時間がかかる上に、素材を落とさない為、冒険者の間では嫌われている魔物の代表格だ。

 すると、ノアが俺の肩をぽんぽんと叩いた。


「あのさ、カインが張り切ってたから何もしなかったんだけど、こいつらと戦いたくなかったのなら、私がドラゴンブレスで焼き払ってたよ」


 ノアからそう告げられた瞬間、俺は再び膝から崩れ落ちた。


「ノアに頼めばよかった……」

 俺は、本日二度目の後悔をした。


「まあ、嘆いていても仕方ない。さっさと次の魔物を探しに――」


 ――うわあああ!!


「ん? 何だ?」


 気を取り直して、魔物を倒しに行こうと思った矢先、近くで悲鳴が聞こえた。


「ノア、行くか」


「うん。分かった」


 誰かが魔物に殺されかけている可能性が高いと思った俺は、即座に悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。




「……あれか」


 俺は、一体のロックコングと、その目の前で尻もちをついて、怯えている二人の若い男性冒険者を見つけた。


「間に合えっ 〈創造〉〈操作〉薬石粉末化!」


 俺は、間に合うことを祈りながら、ロックコングの眼の中に、粉末化した薬石を入れた。


「グガアアア!!!」


 前回同様、ロックコングは暴れ出した。前回のように穴を作って落とす方が確実なのだが、それだと、冒険者二人も巻き込んでしまう可能性が高い。その為、今回は違う方法を取った。


「〈創造〉〈操作〉鉄鎖捕縛・改!」


 俺は、ロックコングの眼に薬石をいれた直後、すかさず、今着ている鎧を素材にして、両側に鉄球が付いた鉄の鎖を作った。そして、それを〈操作〉でロックコングの首に巻き付け、動かすことで、ロックコングを仰向けに倒した。更に、ロックコングは首元も岩で覆われていない為、鉄の鎖によって、窒息していた。だが、それでも、首の拘束をほどこうと、腕を首元に当てていた。


「そうはさせねぇよ。はあっ」


 俺は素早くロックコングの顔に剣を突き付けると、そのままぶっ刺した。


「グガ……」


 ロックコングは、脳を破壊されたことで、息絶えた。前回戦った時よりも、少ない魔力で、時間もかけずに倒せたことに、俺は内心喜びつつも、口を半開きにした状態で、唖然あぜんとしている冒険者二人に声をかけた。


「ふぅ……大丈夫か?」


「あ、ああ・ありがとう。助かった」


「へっ 何だよ。これからボコボコにしてやろうと思ったのに。邪魔するなよ」


 銀髪高身長のイケメンは、執事のように、礼儀正しく礼を言った。一方、赤髪の筋肉質で荒っぽそうな男性は、俺がロックコングを倒したことを、怒っていた。

 まあ、この感じからして、ただの嫉妬だろう。

 自分よりも明らかに年下の人間に助けられた悔しさを、俺にぶつけているだけだ。


「おい。助けてもらったのにその言い方はないだろ! すまない。弟に代わって、私が謝罪する」


 そう言うと、銀髪の男性はさっきよりも深く頭を下げた。


「ああ、大丈夫だ。と言うか、君たちは兄弟なのか?」


「はい。あ、自己紹介を忘れてました。私の名前はサルト・ハーズ。横にいる愚弟の名前は、ザイル・ハーズです」


「分かった。俺の名前はカインだ。そして、横にいるのがノアだ。と言うかハーズって……」


「はい。私たちは、ハーズ商会会長、ディーネ様の孫です。だからと言って、話し方は変えなくてもよろしいですよ。今の私たちは、ただの冒険者ですから」


「そうか……分かった」


 俺は、サルトさんの腰の低さに驚きつつも、頷いた。

 ハーズ商会と言うのは、ゲルディンに拠点を置く、帝国南部最大の商会である。そんな大商会の会長の孫二人が、こんなところにいるという事実にも、俺は驚いた。


「それで、お礼がしたいので、是非、我が商会に来ていただけませんか?」


「……分かった。お伺いしましょう」


 俺は少し悩んだが、ハーズ商会と繋がりを持っておくのは悪くないと思い、頷いた。


 その後、俺たち四人は街に向かって歩き出した。

 その間、サルトさんはずっとザイルさんのことを叱っていた。まあ、ぱっと見た感じでは、反省しているようだった。そう、パッと見た感じでは……

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