第七話 〈操作〉の域を超えてるぞ!

「……ノア、魔物は?」


「この辺に一杯いる。避けて通ることは出来ない。しかも、こっちに向かってきてる」


「やはりか」


 街に向かって歩いていたのだが、運悪く、四方八方に魔物がいる所に来てしまった。まだ見つかってはいないが、こっちに近づいてきていることを考えると、この場に留まるわけにもいかない。

 そう思った俺は、このまま街に向かって歩くことにした。


「二人とも。この先に魔物がいる。だから気を付けて」


「わ、分かりました」


「ああ、倒す役は譲ってや……すみません。倒してください。お願いします」


 ザイルさんが、上から目線の発言をしようとしたが、サルトさんの怒りのスマイルを受けて、大人しくなった。


「では、行くか」


 俺はそう言うと、再び歩き出した。




「……あれか」


 前方にいたのは、森に溶け込むように、全身が緑色の毛で覆われた、体長二メートルの虎だった。


「うげ、よりにもよってこの森の最上位……」


 こいつはフォレストタイガーと言う魔物で、危険度はSだ。


「う、あれは……」


「あああ……」


 サルトさんとザイルさんはフォレストタイガーを見た瞬間に腰を抜かして、へなへなと座り込んでしまった。

 そして、フォレストタイガーは俺たちに気が付いて、ゆっくりと近づいてくる。


「ここは私が――」


 ノアがそう言いかけたが、フォレストタイガーに視線集中させていた俺の耳には届かなかった、


「ちっ やってやる。〈創造〉〈操作〉飛剣!」


 俺は〈創造〉で短剣を作り、〈操作〉でフォレストタイガーに飛ばすという動作を高速で繰り返した。


「グルアア!!!」


 フォレストタイガーに短剣は刺さったが、皮膚が思いのほか硬く、深く差すことは出来なかった。その為、フォレストタイガーが少し動くと、刺さった短剣は抜けて、地面に落ちてしまった。


「グルァ!」


 フォレストタイガーは、俺の短剣を脅威ではないと認識したのか、さっきよりも速い速度で近づてくる。


「ちっ どうしたら……あ、これならどうだ!〈操作〉」


 地面に落ちた短剣を〈操作〉で動かすと、四方八方から、フォレストタイガーの眼を狙って飛ばした。


「!? グガッ」


 フォレストタイガーは、その短剣を上に跳ぶことで回避した。その反応速度は見事なものだが、空中にいたら、避けることは出来ない。


「これで終わりだ!〈操作〉」


 俺は再び〈操作〉で、さっきの短剣をフォレストタイガーの眼を狙って飛ばした。

 その結果、右目に短剣を刺すことに成功した。


「グガガガ!!」


 フォレストタイガーは痛みでもだえ苦しむと、一目散に逃げだした。


「ちっ 逃げられたか……」


 まあ、この状況であいつを倒すとなると、ノアの力が必要になる。その為、逃げてくれたことは、むしろありがたいことなのだろう。


(てか、さっきの状況を打破するだけなら、ノアに頼めば直ぐに終わったんだけどなあ……)


 ただ、ノアの手を借りすぎるのは、男として負けたような気分になる。なので、俺の心の健康を考えると、俺一人で対処したのは正しい行為なのだろう……多分。


「よし、……大丈夫か?」


 俺は、後ろで抱き合いながら、腰を抜かしている二人に声をかけた。


「あ、ああ、ありがとうございます」


「は、はい。助った」


 サルトさんは、ゆっくりと立ち上がると、足を震わせながらも礼を言った。ザイルさんも、今回ばかりは地に頭がつきそうなぐらい、深く頭を下げて、礼を言った。


「あの……カインさんはどのようなスキルをお持ちなのですか? 私は目をつむってたせいで、あなたが一歩も動かずに撃退したことしか知りません……」


「そうだな……俺のスキルは〈操作〉だ」


 スキルと言うのは、基本一人一つで、二つ持っている人は、世界中を探し回っても、片手に納まる程度しかいない。その為、俺は〈操作〉のみを持っていることにした。これなら、短剣を作ったことも、マジックバッグから出したことにすれば説明が付く。

 俺の話を聞いた二人は、「嘘だろ?」て感じの視線を俺に向けてきた。まあ、〈操作〉と言うのは、荷運びが便利になるスキルというイメージが強すぎるので、この反応は仕方のないことだ。


「いや、本当だぞ。ちょっと見ててくれ」


 俺はそう言うと、地面に落ちていた短剣十数本を〈操作〉で浮かせた。そして、近くにあった木めがけて飛ばした。


 ――ドドドドドドドドド……


 俺はすべての短剣を、一か所に狙い撃ちした。その結果、木に大穴が空き、直径十五センチほどの木が地面に倒れた。


「どうだ? 〈操作〉も結構いいもんだろ」


 俺は自慢げに言いながら振り返った。すると、二人は口を半開きにした状態で、ポカーンとした、その後、少ししてから、我に返った二人はこう叫んだ。


「「〈操作〉の域を超えてるぞ!」

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