第四話 それぞれの考え

「おい! 何故お前らは俺たちを襲いに来たんだ。さっさと言え!


 この質問に対し、こいつらは俺をにらみつけながら、「くうぅぅぅ……」と、悔しそうにうなっていた。


「唸り声だけじゃ分からん。何故狙ってきたのか聞いているんだ」


 俺は低い声で、威圧しながら、こいつらを睨みつけた。剣を首筋に当てて、脅したりもした。

 すると、三人の中の一人が、「へっ」と鼻で笑うと、口を開いた。


「てめぇはおしまいだよ……ぐふっ……ちょうどこの街にいるマリア様が……お前を殺すぞ……」


 まるで、「お前も俺らと同じ運命をたどるんだよ」とでも言いたそうな目をしている。そして、一人が言ったことで、他の二人も口を開いた。


「お前は……マリア様の資金源を……潰したのだからな……」


「せいぜい……怯えて……生きるがいい」


 こいつらの、呪いのような言葉の中に、聞き捨てならない言葉が入っていた。


(マリアだと!? そして、資金源を潰した?)


 マリアが、俺の命を狙っていることに、一瞬俺の生存がバレたのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。そして、俺が潰した資金源になりそうなものと言うと、一つしか思いつかない。つまり、これが指すことは……


「マリアは影の支配者シャドールーラーを利用して、金を集めてたってわけか……」


 マリアが大金を持っていた理由がようやく分かった。


「ちっ この事実を突きつければ、あいつは良くて追放、最悪処刑だな。だが、貴族ではなくなった俺が言ったところで、証拠はないから戯言ざれごとと切り捨てられて終わりだし、罰は俺自身の手でやりたいからな」


 それにしても、あのマリアのことだ。今後も、狼のようにしつこく俺たちの命を狙ってくるだろう。


(ん? これは逆にチャンスなんじゃないか?)


 マリアが、今回の襲撃者以上に強い部下を持っているとは考えにくい。そうなると、次は油断している所を叩く作戦に出るだろう。

 現状で、あいつが取りそうな作戦は、俺が考える限りだと二つある。

 一つ目は、寝込みを襲うことだ。宿の人間にも、俺たちが罪人であると言えば済む話なので、部屋に侵入するのも簡単だろう。

 二つ目は、俺たちを領主館に誘い込むことだ。俺たちにとって都合のいいことで、俺たちを領主館に誘い込み、罠にはめるというのも、かなり良いだろう。

 この二つの作戦を見比べると、後者の方が実行される可能性が高い。何故なら、領主館で襲う関係上、誰かに見られる心配が少ないからだ。


 だが、これらを考えていると、一つの疑問が頭の中に浮かんできた。


(でも、わざわざ俺たちを始末したところで、あいつが得られるものってなんだ? それに、俺たちを襲うリスクはかなり大きいと思うんだけどなあ……)


 俺たちを襲撃したら、それが他の人に見られる可能性は、少なからずある。そして、そこから他の貴族や皇帝に目をつけられたらお終いだ。一方、俺たちを始末したところで、得られるものは無いに等しい。あいつも馬鹿ではない。なので、それくらいのことは分かっているはずなのだが……


「……分からない」


 俺はその理由について考えたが、納得のいく答えは出てこなかった。


「まあ、取りあえずバッグを渡しに行くか」


「……あ、うん」


 考え込んでいた俺をじっと見つめていたノアが、我に返ると、気の抜けた返事をした。

 俺はその様子に少し笑みを浮かべながらも、バッグを手に取ると、路地裏から出た。


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 マリア視点


「ねぇ、もう一度聞いてもいいかしら?」


 私はひたいにくっきりと青筋を浮かべながら聞いた。


「はい。実行部隊七名中、六名死亡。私は、ただの盗人だと思われたようで、生き残ることが出来ました」


 部下の男は床に頭をつけるほどの、深い土下座をしながらそう答えた。


(ありえない。精鋭を送ったのに。作戦通りに事が進んだのに。何故あいつらは無事なの?)


 先ほど送った七人中六人は、ハルス様からいただいた凄腕の暗殺者。気配を消すことに関しては世界トップクラスなのに……


(どうしましょう……このままでは更に怒られてしまう……)


 私はあごに手を当てながら、必死に打開策を考えた。そして今、最善策を見つけることが出来た。


「そうだわ。あの二人に『影の支配者シャドールーラーを滅ぼした報酬を与えるから、領主館に来るように』と、言いなさい。なるべく好印象を持たれやすい人で頼むわよ。分かった?」


「はい。承知しました」


 部下はそう言うと、足を震えさせながら、部屋の外に出て行った。


(あの部下は使えなかったから、今すぐ殺してやりたいわね。だけど、あいつもハルス様から、諜報部員として頂いた人なのよね……)


 まあ、そんなことはどうだっていい。


「さて、早くあいつらを捕まえて、ハルス様に渡さないと」


 私は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。


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 ケイン視点


(あいつらとは戦いたくねーんだけどな……)


 マリア様への報告を終えた俺は、内心ため息をつきながら、部屋で休憩をとっていた。

 俺は元々ガルゼン公爵につかえる諜報部員の一人だった。だが、ハルス様の命で、あろうことか影の支配者シャドールーラーと、マリア様の諜報部員になってしまった。

 俺はそこで、貴族の闇と言うものをいやと言うほど見せられた。諜報部員であったおかげで、今まで人殺しをすることはなかった。だが、今回は俺も殺しにかり出されるだろう。


(初めての人殺しがあんな善人なんてやだよ……)


 他人のバッグを取り返す為に、危険をかえりみず、行動するあいつらに剣を向けたくない。


(もうごめんだな。孤児院にいた俺をガルゼン様が引き取ってくださったからこそ、今までガルゼン様の命である”ハルス様の言うことを聞く”を守ってきた。だが、善人を殺してまで従うことは出来ないな……)


 そう思った俺は、ひそかに行動に移すことにした。

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