第三話 ひったくり

「よし、食事も終わったし、領主館付近に行ってみるか」


「うん」


 昼食を食べ終えた俺たちは、領主館の方へ向かって歩いていた。


 ――ドン


 人と人がぶつかるような音が近くから聞こえた。

 音のした方を見てみると、転んでいる一人の老婆がいた。そして、その老婆は前方に手を伸ばしながら、「あ、私のバッグが!」と叫んでいた。

 前方を見てみると、高級そうな革のバッグを小脇に抱えて、走り去る一人の男性がいた。

 男性は一度振り返ると、「追いつけるものなら、追いついてみやがれ」と挑発してから、路地裏に逃げ去った。


「ちっ ノア追うぞ!」


 俺はひったくり犯を睨みつけると、直ぐに走り出した。ノアも、俺のすぐ後ろを走って、あの男を追いかけている。


「……そこか」


 何度も路地裏を曲がった先に、バッグを持って、立ち止まっている一人の男性がいた。


「〈創造〉〈操作〉鉄鎖捕縛!」


 俺は〈創造〉で鉄のくさりを作ると〈操作〉で動かして男を捕縛した。

 男は追いつかれるとは思っていなかったようで、特に抵抗されることなく捕縛することが出来た。


「おい! そのバッグを返せ!」


 俺は男の腕を蹴り飛ばすと、バッグを回収した。


「さて、こいつはどうするか……」


 俺がそう呟いた瞬間、ノアが俺の肩をたたいた。


「ねえ、囲まれている」


「なに!?」


 俺が眉をひそめた――その直後、両側の建物の上から、それぞれ三本ずつ矢が放たれた。


「ちっ だがこれくらいなら問題ないな。〈操作〉」


 俺は〈操作〉で、飛んでくる矢を動かして、俺たちに当たるのを阻止した。

 更に、その矢を奴らめがけて飛ばした。

 この矢で終わってくれないかな~と期待していたのだが、奴らも手練てだれのようで、しっかりと避けられてしまった。

 その後、ノアの方を見てみると、ノアがさっきのひったくり犯を蹴って、気絶させていた。何があったのか聞いてみると、何やらこの男は、俺たちが矢に気を取られている隙に拘束を振りほどいて、ノアに襲い掛かったそうだ。だが、ノアに勝てるはずもなく、見事に撃沈したと言う訳だ。


「さて、お前らの目的は何だ」


 俺が低い声で威圧するように言うと、建物の上にいた六人が、下に跳び下りた。

 跳び下りた六人の服装は一般人が着るような地味なものだ。だが、よく見てみると、あちこちに短剣が隠されている。


「ほう、報告では男が女を守りながら戦うと書かれていたが、実際は、女の方もそこそこ戦えるようだな。女の持つスキルは〈気配察知〉といったところか。〈気配隠蔽〉のスキルを持つ俺たちの気配を感知出来ているようだからな。ただ、男のスキルは〈操作〉か……ハズレスキルだが、そこまで使いこなしているとなると厄介だな」


 こいつらの中の一人が、値踏みをするかのような視線を俺たちに向けながら言った。


(こいつら……ベクトルは違えど、ガスラーと同じくらいの強さだな……)


 跳び下りてくる際の身のこなしからして、こいつらは速さを売りにしているのだろう。一方、ガスラーは防護を売りにしていた為、対処の仕方が変わってくる。


(こいつらの前で剣雨を使ったところで先に攻撃されるのがオチだろうしな……ここは身を守りつつ、倒すのがよさそうだな)


「ノア、いったん守りに専念しろ。〈創造〉〈操作〉剣界!」


 俺は〈創造〉で短剣を一本作ったら、〈操作〉で俺たちの周囲を周回させるという動作を高速で行うことで、相手に攻める暇を与えずに、防護体制を整えることが出来た。


「な!? どこから短剣を!?」


「マジックバッグからではないよな?」


 こいつらは、目の前で起きたことに対する理解が追い付かず、混乱していた。まあ、スキルを二つ持っていることを考慮して戦う人なんていないので、この反応も無理はないだろう。


「ま、教える義理はないな。〈操作〉!}


 俺は〈操作〉で剣界の範囲を一気に広げた。


「な!? ぐはっ」


「ぎゃあ!」


 こいつらは、最初は手持ちの短剣で叩き落していたが、〈操作〉によって、地面に落ちた短剣も即座に動き出す為、意味はなく、結果六人中三人が死亡、三人が重傷を負った。


「ふぅ、こんなもんだな」


 俺は〈操作〉を解除しながら、そう呟いた。物量で押しつぶすという作戦は、耐久力のない人間相手には効果抜群だと、思い知らされた。


「ん、何か前よりもスキルが上達してる気がする」


 ノアが、感心しながら俺に近づいてきた。


「そうか? まあ、言われてみれば……」


 俺はほほきながら、そう言った。

 確かに、元家族に殺されかけた時と比べると、若干〈操作〉の精度は上がっているし、〈創造〉の生成速度も上がっている気がする。

 やはり、身の安全が保障された屋敷や学園の中よりも、命の取り合いをした方が、成長もしやすいのだろう。


「まあ、取りあえず話を聞くとするか」


 これほどの実力を持つ人が、ひったくり犯の仲間な訳がない。しかも、明らかに俺たちのことを狙って、襲いに来たかのような口ぶりだった。


「おい! 何故お前らは俺たちを襲いに来たんだ! さっさと言え!」


 俺は、重傷者三人に、さやから引き抜いた剣を突き付けながら言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る