第十三話 作戦開始
「ほう……思ったよりも色々売ってるな」
俺は店の中に沢山ある品を眺めながら、そう呟いた。
「まあ、あいつらのおかげで金はあるし、マジックバッグは良い品質のものを二つ買おうかな」
先ほど、路地裏で倒した五人の
「じゃ、このマジックバッグを二つ買おうかな。一つが俺ので、もう一つがノアのものだ」
そう言いながらノアに見せたのは、一つ二十万セルのマジックバッグだ。このマジックバッグは腰につけるのにちょうどいい大きさだ。だが、この中には、本来の十五倍のものが入るようになっている。
「私にプレゼント? ありがと」
ノアはニコッと笑うと、マジックバッグを手に取った。
「よし、あとは生活用品を買わないとな……」
そう呟いた俺は、数枚のタオルや、歯ブラシ、コップなど、最低限生活に必要なものを一通り手に持つと、会計所に向かった。
「……はい。お値段は四十五万二千セルになります」
「分かった」
俺は金を払うと、即座にマジックバッグに、他に買った生活用品を入れた。
その後、俺とノアはマジックバッグについている金具を腰に
「では、昼食も食べたし、アジトを探すとするか」
「うん。ちなみに今は不審な気配はない」
昼食を前と同じ店で食べた俺たちは、
「まず、こういう組織のアジトは、領主の目が届きにくいスラム街にあることがほとんどだ。だから、まずはそこを探すつもりだ」
俺がそう言うと、ノアが「スラム街って何?」と首を
その質問に対し、俺は「貧しい人や、犯罪者が住む場所のことだよ」と教えたら、「そんな場所もあるんだ……」と、視線を下に向けながら言った。
「まあ、人というのはどうしても貧富の格差が出来てしまうものなんだ。それに、こういうのは平等にしてしまった方が、色々と困るんだよ」
例えば政策で、「富を持つ者は貧しき者に富を分け与えなさい」という政策を出したとしよう。そしたら、「頑張って沢山金を稼いでも意味がない」と思う人が増え、経済が回らなくなる可能性がある。
それに、領地経営をしている人からしてみれば、スラムがあろうがなかろうか、さほど意味はない。どうせ他の領地にもスラム街はあるのだから、わざわざ自分だけが苦労して、スラム街を消す必要なんてないのだ。
残酷だが、全ての人間を幸せにするすべはないのだ。
「……それでさ、スラム街は迷路のように、道幅が狭く、曲がり角も無数に存在する。その為、闇雲に探したところで、アジトを見つけるのは難しい。だから、ここは二手に別れよう。俺が地上から、奴らに見つかるように、スラム街を歩き回る。その間、ノアは上空から監視して、奴らがどこから湧いて出て来るのか見て欲しいんだ」
「うん。任せて」
「ああ。だが、飛んでいるところを見られないように気を付けてくれよ」
「大丈夫。ちゃんと隠れながら見るから」
俺たちは
「よし、じゃあノア、頼むぞ」
「うん」
スラム街の前に来たところで、ノアは上空に飛んだ。
「じゃ、行くか」
スラム街は治安がかなり悪い為、今の俺のように、身なりの良い人が一人で歩いていたら、集団で囲まれて、身ぐるみはがされる可能性が高い。そんじゃそこらの人間に負けるほどやわではないが、それでも警戒は必要ということで、あらかじめ〈創造〉で大量の短剣を作ると、マジックバッグに入れておいた。
(この視線。来そうだな……)
俺はスラム街に入った瞬間に、そう思った。
周囲にある建物の陰から、俺のことを金を見るかのような眼で見つめて来る人が何人もいる。
すると、予想通り、一斉に襲い掛かってきた。
俺一人だけなのにも関わらず、なめずに本気で向かってくるのを見るに、みんな生きるのに必死なのだろう。恐らくこいつらは、一番最初に俺を殺した人が、金品をとる権利があるという条約を結んでいるのだろう。
「だが、俺も生き続けなければならないんだ。はあっ!」
俺は一言そう告げると、さやから引き抜いた剣を横なぎに振った。
今ので、間合いに入っていた三人が首を切られて死んだ。残るは二人。
俺は、剣に付いた血を振り払いながら、二人のことをじっと見つめた。
二人は、今の光景を見て、逃げ腰になっていた。
完全に戦意を喪失した人間を殺す気になれなかった俺は、こいつらに「もう二度と人を襲うな。分かったな」と、強めに脅しながら言うと、その場を離れた。
(……こりゃ動きがあったみたいだな)
遠くから俺を観察するような目で見ていた黒いローブの男が去っていくのが見えた。
「ノア、頼んだぞ」
俺はそう呟くと、上を向いた。まあ、ノアもちゃんと隠れながら監視しているようで、ここからノアの姿は見えなかった。
「じゃ、俺も進むか」
俺はそう言うと、再び歩き出した。
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