第十二話 お前らに勝ち目はないぞ

「お前らに勝ち目はないぞ。〈操作〉剣雨!」


 俺がそう言った時、三人は「何を言ってるんだ?」とでも言いたそうな顔をした。だが、その次の瞬間、上から大量の短剣が雨のように降り注ぎ、三人を襲った。


「な!? がはっ」


「が、ぐはっ」


「ぐわっ……」


 三人は全身に刺し傷を負い、戦うどころか、体を動かすことさえ出来なくなっていた。


「ふぅ……あらかじめ準備しておいて正解だったな。流石に準備していなかったらヤバかった……」


 俺は地面に倒れたこいつらを見下ろしながら、そう呟いた。


 ではここで種明かしタイムといこう。

 実は、俺は路地裏に入った瞬間に、身に着けてある〈創造〉で作った剣と鎧、そして、新たに作った鉄を素材にして、大量の短剣を作っていたのだ。

 その後、〈操作〉で短剣を十メートルほどの高さにまで上げると、建物の陰で隠しながら、ここまで持ってきたというわけだ。

 そして、こいつらが近づいてきたタイミングで、〈操作〉を使って勢いよく下に落としたというわけだ。


 結構簡単に言ったが、実際の所、これはかなり難しい技だ。

 普通、〈操作〉で同時に動かせるのは三つまでだ。それを、その十倍ほどにまで増やすというのは相当な鍛錬たんれんが必要だった。俺は、毎日家の庭や学園の中庭で特訓をして、何とか習得したのだが、それでも五年はかかった。折角の青春時代を自己を高める為だけに使ったことに、後悔したこともあったが、今は最良の選択だったと思っている。


「さて、ノアの方はどうなったかな?」


 俺はノアが向かった方向に視線を移した。

 すると、二人の女の足を持って、引きずってくるノアの姿があった。


「カイン。こっちも終わったよ。一応生け捕りにしたけど必要なかった?」


 ノアは死にかけている三人を見下ろしながら、そう言った。


「いや、ありがとう。こいつらならアジトの場所を知ってそうだしな」


 俺はノアの頭を優しく撫でながらそう言った。そして、ノアは撫でられると、目を細めて微笑ほほえんだ。


「よし、それじゃ、お前ら。アジトの場所はどこだ? 正直に言えば命だけは助けてやる。だが、言わなかったり、嘘を言ったりすれば、死よりも恐ろしいことが待ってると思え」


 俺は腰から剣を引き抜くと、女二人の目の前に突きつけた。


「くっ……なめるなよ。私がお前に屈するわけがない!」


「ええ……お前に情報は渡さないわ!」


 二人はそう叫ぶと、奥歯を鳴らした。すると、二人は突然地面に倒れ、死んだ。

 よく見ると、口から血が流れている。


「か、カイン! こいつらは何をしたの!?」


 この二人が自殺をしたことに、ノアは戸惑っていた。


「情報を渡さない為の自殺だ。狂信者な奴ほど追い詰められたら何の躊躇ためらいもなく自殺をする」


 ノアはそれを聞いて、「信じられない……」と、口元に手を当てながら呟いた。


「そうだな。だが、そうする人間も一定数いるということは覚えておいた方がいい」


 俺はそう言うと、さっき短剣の雨を降らして攻撃した男たちの方を見た。すると、こいつらも案の定、毒を飲んで自殺をしていた。


「くそっ やっぱりか」


 俺は悪態をつきながら小石を蹴った。


「まあ、こうなったら仕方ない。だが、二度も失敗したことで、やつらも動揺して、次の行動は大胆なものになると見た」


 こういう裏組織は計画が失敗しても諦めようとしない。損切と言う選択肢から目をそらす。だから、それを利用すれば、俺たちが影の支配者シャドールーラーを追い詰めることが出来るかもしれない。


「では、装備を整えたらアジトを探し出して潰すか」


「うん。やつらは私を怒らせた。だから私も潰す」


 俺たちは頷きあうと、地面に倒れている五人のふところを漁ってから、路地裏の外に出た。


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 ガスラー視点


「嘘だろ……何であいつらが負けるんだ!」


 俺は五影臣全員が死んだという報告を受けて、激しく動揺した。あいつらはスキルの関係上、俺より弱いが、スキルなしの戦いなら俺と互角か、それ以上の実力を持つ。


「くっそ……だがガゼルが死ぬ前に情報を伝えてくれたからな」


 ガゼルは”刻印”を刻んだ人と、半径一キロメートル以内にいれば、脳内で会話することが出来る〈念話〉のスキルを持っている。

 これのお陰で奴の戦い方を把握することが出来た。だが、奴の戦い方には疑問点が一つある。


「短剣を頭上から雨のように落として攻撃してきたとか言ってたけど、それって一体何のスキルを使ったんだ?」


 落ちて来る短剣が数本なら、〈操作〉や〈空間操作〉で説明が付く。だが、あいつは数十本も落として攻撃してきたらしい。俺とて、そんな出鱈目でたらめなスキルは聞いたことがない。


「う~ん……他に仲間がいたのか?」


 俺は他に仲間が数人いて、そいつらが上から短剣を落として攻撃したのではないかと思った。だが、あいつらへの信頼が、その考えを否定する。


「いや、あいつらが……特にあいつが協力者の気配を察知できないわけがない」


 五影臣の一人、ドリーは〈気配察知〉のスキルを持っている。このスキルは周囲にいる生き物の気配を察知するスキルだ。

 俺は、このスキルをもってしても一切察知できないスキルも聞いたことがない。例え〈気配隠蔽〉のスキルを持っていたとしても、ある程度は察知出来るのだが……


「くっそ、あの野郎……この俺をここまで悩ませやがって……必ずおれはこの手で殺してやる……おい! 全員集めろ! 全戦力をもってして、あのなめたガキを潰すぞ!」


 俺は怒りのままに、そう宣言した。

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