第十一話 楽しい買い物…に邪魔が入った

「じゃ、後はノアと、ついでに俺の冒険者用の服。そして、マジックバッグも買っておいた方がいいな……」


 ノアの服は戦いづらいし、シザーズのケースをつけられる場所がない。今は一時的にワンピースの腰辺りの場所に〈創造〉で作った金具を取り付けて、その金具にケースの金具をつけることで持たせているが、流石にワンピースにこのケースは似合わない。その為、先に服屋に向かうことにした。




「ん~色々あるな……この中で冒険者向きのやつだと……お、これなんかどうだ?」


 服屋に入った俺はノアの服を選んでいた。そして、しばらく悩んだ末に俺が選んだものは、一部に金色の線の模様が付いた黒色の服だ。腰には金具を取り付けられる金具が左右に一つずつあり、ポケットは左右に一つずつ、左胸に一つの計三つある。

 ノアはこれを見つめると、「うん。いいと思う」と、笑顔で言った。

 その後、俺もどれにするか悩んだが、結局ノアと同じ服にした。


「はい。会計は五万二千セルになります」


 値段はそこそこ高かったが、ガルドリアさんの店で予想以上に金を使わなかったお陰で、まだお金には余裕があった。

 その後、試着室を借りて、互いに新しい服に着替えた。因みに、服を変えたことで、貴族の服を隠す為に来ていた鎧が邪魔になった為、塵にした――のだが、その塵の置き場に困った為、面倒ではあるが、また、〈創造〉で鎧にして着た。

 そして、貴族の服を小さく丸めて、抱えながら試着室の外に出た。


 俺が外に出るのと、ノアが外に出るのはほぼ同時だった。


「……似合ってるな」


 俺はノアの方に視線を移すと、そう呟いた。


「うん。こっちの方が動きやすい」


 ノアはぴょんぴょんと跳んだり、腕を上げ下げしながら言った。


「それは良かった。あ、ワンピースは俺が持っとくよ」


 俺はノアが肩にかけていたワンピースを受け取ると、〈創造〉でリュックサックに変えて、その中に俺が着ていた服を入れると、背中に背負った。


「これで良し、じゃ、次はマジックバッグを買いに行くか」


「うん。行く」


 俺はノアと共に店を出ると、今度は冒険者向けの装備品店に向かって歩き出した――のだが……


「……カイン。誰かに後をつけられてるよ」


「だよな。だが、前のやつらと比べると気配を消すのが上手いな。周囲を警戒していなかったら絶対に気が付かなかっただろうな」


 俺たちは小声で後をつけられていることについて話し合った。

 俺は昨日の件もあって、かなり警戒していた。それで、ギリギリ気づけるかどうかの相手なのだから、間違いなく前のやつらよりは強いだろう。


「なあ、何人いるんだ?」


「ん~と……五人だね」


「そうか……ノアなら勝てるか?」


 俺では、二人を相手にするのが精一杯だと思った俺は、ノアにそう聞いてみた。すると、ノアは「もちろん」と、当然のごとく言った。まあ、ブラックドラゴンが人間五人を相手に負けるわけがないので、その心配は杞憂きゆうだろう。


「じゃあ、上手いこと誘い出すぞ」


「うん」


 俺とノアは小さな声で話し合うと、そう頷いた。

 その後、俺が「こっちが近道なんだよ」と、少し大きめの声で言うと、路地裏を指さした。そこにノアが「そうだね」と言いながら頷くと、一緒に路地裏に入って行った。因みに、今の会話は完全に即興そっきょうだ。

 何故、わざわざこのような会話をしたのかと言うと、今、俺たちの跡をつけている五人は、ノアが言うにはかなり慎重に動いているらしい。その為、不自然に路地裏に行ったら、怪しまれて、釣れない可能性があったからだ。


「……来たか」


「……うん」


 路地裏に入ってから、五十メートルほど歩いたところでの男に囲まれた。


「なあ、他の二人は?」


「え~と……さっき私たちが路地裏に入った場所から私たちのことを見ている」


 俺とノアは身を寄せ合いながら、小声で話し合った。

 どうやらこいつらは相当戦いなれているようだ。人数差で勝っていようと決して油断せず、逃走経路もふさごうとするのは厄介だと思った。


 一方、こいつらは俺を品定めするような目で見てくる。


「ほう……俺たちを前にしても動じないか」


「それなりに強いようだ。確かにこいつなら、恋人を守りながら戦って勝てたというのも納得だな」


「確かにな。だが、俺たちは前のような雑魚ではないぞ」


 三人はそれぞれそう言うと、一人は短剣二本、二人は剣を手に持つと、構えた。


「ノア、こいつらは俺がやる。ノアはあっちにいる二人を捕らえて、ここに連れて来てくれ」


「分かった」


 ノアは小声でそう言うと、こいつらの内の一人の頭上を跳び越え、そのまま走り去った。


「ほう、逃げ足が速いな。だが残念。逃走経路は塞いである」


 こいつらの中の一人が剣を俺の方に向けると、かっこつけながらそう言った。


「まあ、お前はボスの邪魔をしたんだ。そんなお前には拷問からの死刑がお似合いだな」


 今度は短剣を持ったやつが、短剣をペロッと舐めながらそう言った。

 その直後、そいつの舌から血が出たような気がするが気のせいだろう。例えそいつが口を押えて、小声で「いてえなあ」と言ってたとしても、その横にいたやつが、「それ、前もやったよな?」と言ってたとしても、気のせいだろう(笑)


「おい、ドリー、ガリュール。これ以上無駄に時間を使いたくないからさっさと終わらせるぞ」


「分かったよ。ガゼルの兄貴」


「うっわ、血が付いた……じゃなくて、分かった。やるぞ」


 何とも締まらない雰囲気だが、それを振り払うかのように、三人は一斉に俺に切りかかった。

 だが、俺は慌てない。

 俺は余裕の表情を浮かべながら、小さく笑みを浮かべると、口を開いた。


「お前らに勝ち目はないぞ。〈操作〉剣雨!」

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