第十話 才能とは

 次の日の朝――

 俺たちはガルドリアさんの所へ、武器を受け取りに行くところだ。


「俺の剣。どんな感じなんだろうな~」

 家族からさげすまれていた俺はまともな剣を買ってもらったことがない。その為、ゲルディンで最高の鍛冶師であるガルドリアさんが作った剣を手に入れられることに少し興奮気味だった。

 そんな俺を横から見ていたノアは「くすっ」と笑うと、「私も楽しみ」と言った。




「ガルドリアさん。おはようございます」


 店に入った俺は会計所の椅子に座って、剣の手入れをしているガルドリアさんに挨拶をした。


「お、カインとノアか。ちょっと待っててくれ。取ってくるから」


 ガルドリアさんはそう言うと剣を置き、店の奥に向かった。そして、十秒ほどで長さ五十センチほどの細長い爪が五つ付いている武器、シザーズを二つ持って戻ってきた。


「ほら、これがノアの武器だ。試しに着けてみろ」


 ガルドリアさんは会計所の上にシザーズを置くと、そう言った。ノアは、言われた通りシザーズを手に取ると、二つとも手にはめた。


「凄い……これ、鉄なのに結構強度がある」


 ノアは手にはめたシザーズを、目を見開きながら見ていた。


「……これって魔鉄か?」


 俺はシザーズをみて、そう呟いた。

 魔鉄と言うのは鉄鉱石を〈鍛冶〉のスキルを持つ人が、鉄に変える過程で魔力を流すことで作りだされる鉄のことだ。〈鍛冶〉のスキルを持つ人の中でも熟練者でないと出来ない、高難易度な技術だ。その為、俺ではどう足掻あがいても出来るわけがない。


「お、分かるか。これ、魔力を沢山込めたからな。おかげで二階も魔力切れになっちまった」


 ガルドリアさんは豪快に笑いながら言った。


「それで、これがシザーズの収納ケースだ」


 そう言いながら、会計所の下から上に取り出したのは、細長い二つの革のケースだ。このケースは、腰に取り付けられるように金具がつけられている。

 ノアはそれを受け取ると、シザーズをケースの中に入れて、ケースを抱え持った。


(あ、そう言えばノアの服はワンピースだからな……)


 今後の為にも、後でノアに冒険者用の服を買っておこうと思った。


「よし。それで、カインの剣はこれだ」


 そう言いながらガルドリアさんが出したのは、さっきガルドリアさんが手入れをしていた剣だ。よく見ると、この剣も魔鉄で出来ている。


「ああ、これは元々作ってあった剣に、より魔力を込めて強化させたやつだ。まあ、それはサービスだな」


 ガルドリアさんは再び豪快に笑いながら言った。


「はい、ありがとうございます」


 俺は頭を下げて礼を言った。


「まあ、気にすんな。あと、これがさやだ」


 そう言いながら、会計所の下から取り出したのは、硬い革で出来たさやだ。

 俺はそのさやを受け取ると、剣をその中に入れ、満足げな表情をした。


「それで、これはいくらなのですか?」


 ノアの武器も俺の武器も、かなり高い品質になっている。それらを考慮すると、とてもじゃないが昨日俺が出せると言った二十五万をオーバーしてしまう。なので、内心「頼むから『あ、すまん色々頑張ったらこんな値段になっちゃった』と言わないでくれ!」と思っていた。だが……


「ああ、これは二つ合わせて十五万でいいぞ」


「え!? 二つで十五万!?さ、流石に安すぎではないですか……」


 俺はガルドリアさんが言った値段の安さに驚愕きょうがくし、目を見開いた。

 すると、ガルドリアさんは豪快に笑いながらこう言った。


「がははっ これもサービスってやつだ」


「そうですか……ありがとうございます。ただ、一つ聞きたいことがあります。何故、俺たちをここまで親切に気にかけてくれるのですか?」


 俺たちに対し、ここまで親切に気にかけてくれる理由が分からなかった俺は、そう聞いてみた。

 それに対し、ガルドリアさんは腕を組むと、こう言った。


「ん? それは俺がお前たちを気に入ったからだ。二人とも才能があり、努力もして、弱者相手に威張らない。むしろそんなお前たちを見て気に入らないと思うやつがいるか?」


 ガルドリアさんは純粋に俺たちのことを褒めてくれた。それに対し、俺は頬をきながら少し照れた。


(それにしても才能がある……か……)


 才能がないと言われたことならいくらでもある。だが、才能があると言われたのは今日が初めてだ。

 この世界ではスキル=才能と言う考え方が普通だ。そのせいで、俺は才能がないと言われてきた。

 だが、ガルドリアさんが言った「才能」はスキルではない別のものを指しているように思えた。


「才能とは一体何のことを指しているのですか?」


 俺は思わずそう聞いた。


「ん? そんなの知らないな。俺は何となくあると思っただけだ」


「な、何となく……ですか?」


「ああ、自分の真の才能が何なのかを決めるのは自分自身だと俺は思っている。だが、お前は自分の才能に気づくことなく、その才能を開花させているように見える。まあ、その才能が何なのかを考えるよりも、お前は今まで通りに生きた方が良いと思うぞ」


 ガルドリアさんはまた豪快に笑った。

 俺はそんなガルドリアさんを見て、「ふっ」と笑うと、言われた通り、才能について考えるのはやめることにした。


「では、ありがとうございました」


 俺は十五万セルを払いながら礼を言うと、左腰に剣をつけた。

 すでに右腰にも剣をつけてあった為、はたから見れば二刀流の剣士のように見える。まあ、実際の所、二刀流の腕前は素人に毛が生えたぐらいだ。


 その後、俺は手を振りながら、ノアと共に店を出た。

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