第十四話 気がするだけかーい

「……視線は感じるが、襲ってくる様子はなさそうだな……」


 俺が歩いている様子を、北側の建物の陰から観察している人間が数人いることを、視線から読み取った。


(こいつらはスラムに流れた人間ではなく、スラムに隠れ住んでいる人間、影の支配者シャドールーラーの連中だろうな)


 恐らく、俺の動向を監視して、隙あらば殺害といったところだろう。


(ん? てことはノアがアジトの場所を突き止められたんじゃないのか?)


 そう思った俺は一旦スラム街から出る為に、来た道を引き返した――その瞬間、南側の建物から計三十人以上の人間が出てきた。まあ、気配がだだっ漏れだったので、最初から気が付いていた。


(……思ったよりも多いな)


 だが、見た感じあまり強くなさそうなので、勝つことは出来そうだ。



「お前がボスを怒らせたやつか。おい! 絶対に油断するなよ! 囲んで倒すぞ!」


 リーダーらしき男がそう叫ぶと、こいつらは俺を囲み、じりじりと詰め寄ってきた。

 これだけの大人数に囲まれた時は、”倒す”ことを意識して戦うのではなく、”守る”を意識して戦った方が勝率も高くなる。


「では、〈操作〉剣界!」


 俺はマジックバッグから全ての短剣を取り出すと、〈操作〉で俺の周りを高速でグルグル回るように動かして、近づけないようにした。


「な!? なんだよこれは!」


「ちっ うろたえるな! 遠距離攻撃だ!」


 リーダーらしき男がそう叫ぶと、数人の男が人間の頭ほどの大きさの火の球を飛ばしてきた。恐らく〈火術士〉のスキルによるものだろう。


「ま、〈創造〉鉄盾」


 俺は〈創造〉で鉄の盾を作ることで、剣界を搔い潜って、俺の目の前に来ていた火の球を防いだ。


「ちっ マジックバッグにどれだけ詰めてんだよ。じゃあ、あの飛んでいる剣を叩き落すぞ!」


 今度は全員が剣を抜くと、一斉に俺の周りを飛んでいる短剣を叩き落そうとしてきた。

 叩き落されても、また〈操作〉で飛ばせばいいので無意味だが、さっさと終わらせたかった俺はここで一気に勝負をつけることにした。


「ま、みんなそこに集中してくれるのなら当てやすいな。〈創造〉〈操作〉」


 俺は〈創造〉で大量の短剣を作ると、〈操作〉でこいつらの頭上に上げた。この時、こいつらは剣界の突破に夢中で、上空にある短剣に気づいていない。


「では、終わりだ。〈操作〉剣雨!」


 俺は上空から短剣を雨のように落とした。


「がはっ」


「ぐはっ」


「ぐぎゃあ!!」


 こいつらは剣雨によって次々と倒れていった。そして、僅か十秒でこの場に立っているのは俺だけとなった。


「やれやれ……では、ここから出るとするか」


 俺はそう呟くと、スラム街の外へ向かった。


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 ガスラー視点


「なるほどな。そういう戦い方か……」


 隠れながらあいつの戦い方をこの目で見て、ある程度把握することが出来た。だが、見れば見るほど何のスキルか分からない。


「やはりあいつ一人で戦ってるな……あの短剣や盾はマジックバッグから出しているようだが、どうやってあれほどの数を動かしているんだ? まさか本当に〈操作〉や〈空間操作〉なのか?」


 もし、あれが〈操作〉や〈空間操作〉によって引き起こされているものだとしたら……


「もはや人間業にんげんわざじゃねぇな……」


 俺は背筋が凍ったようにゾッとした。


「だが、あれなら俺の〈金剛〉で防げそうだな」


 俺は〈金剛〉という自身の耐久力を大幅に上昇させるスキルを持っている。それを使えば、あいつの剣を防ぐことも出来るだろ。


「じゃ、アジトに戻ってあいつと戦えそうなやつをかき集めたら潰しに行くか。そして、万が一俺が負けた時の為に、あの方に使いを送っといた方が良いな」


 俺はそう呟くと、アジトに戻った。


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 ノア視点


 私はカインに頼まれた。やつらがどこを根城にしているのか突き止めるようにと。


 上空に飛んだ私は建物の陰から地上を見下ろした。


「む……害意のある人間が一杯いる」


 カインに害意をもっている人間約四十人が、カインのことを見ている――あ、今カインをその内の数人が襲った!


「うん。でもカインなら大丈夫」


 私はカインのことを信用している。

 カインは人間の中で最上位だということは、ここ数日の出来事を見手入ればすぐ分かった。特にスキルの熟練度が異常。どうやったらあそこまでスキルを使いこなせるのか、長い時を生きてきた私にも分からない。

 そんなことを考えている内に、カインは三人をやっつけていた。


「うん。流石。じゃあ、私も頑張ろう」


 下を見てみると、カインが三人をやっつけた直後、約十人がどこかに向かって走り出したのが見えた。私はそいつらをじっと見つめた。絶対に見失うわけにはいかない。


「むむむむむ……む! そこか!」


 私はそいつらが入った建物をビシッと指さしながら言った。


「よし、これで私の仕事は完了。カインの方も終わったっぽいし、さっきの場所に行こっと……あ、カイン。褒めてくれるかな?」


 カインに頭を撫でられると安心するし、心地いい。抱きしめてくれた時は最高だった。


「ふふっ 楽しみ」


 私はこの時、カインのことを友達ではなく、異性として見た――気がする。

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