第三話 同じベッドで…
「ふぅ……いい感じだな」
俺はこいつらを見下ろしながら満足気に言った。
一部始終を見ていた周りの人たちは口をポカーンと開けながら
「カインも見事な手加減。ちゃんと力を抑えている」
「そ、そうだな。が、頑張って手加減したぞ……」
俺は頬を
割と本気で殴ったのだが、ノアにこんなことを言われてしまった為、思わずごまかしてしまった。
「じゃ、じゃあ行くか」
「うん」
ノアは満面の笑みで頷くと、俺の右手を優しく握った。
こうして俺たちは、のんびりと散歩を楽しむことにした。
「ノア、楽しかったか」
「うん」
俺たちは夕飯になるまでの四時間を、散歩だけに費やした。
ノアが石畳の道や、街灯、建物など、色々なものに興味を持ってはしゃぎまわり、俺がそれらについて頑張って解説していたので、”のんびり”と散歩が出来たのはノアだけだが……
「では、そろそろ夕食にしないとな。食事は……あそこでいいか」
俺は、ノアと共にゲルディンで一番人気のある飲食店である円満亭へ向かった。
円満亭に入り、対面の二人席に座った俺たちはメニュー表を見て、どれを食べるか選んでいた。
「さて……俺はハンバーグセットにしようかな。ノアは何にする?」
「私もカインと同じのにする」
直ぐに注文が決まった俺たちは、店員さんを呼び、ハンバーグセット二つを注文した。
十分後、ハンバーグセット二つが俺たちの元に届けられた。
俺は、フォークとナイフを手に取ると、慣れた手つきでハンバーグを切って、口に入れた。
「美味しいな」
ここでふと、ノアの方を見てみると、ノアはナイフとフォークを手に持ちながら、二つを不思議そうに見つめていた。
「ああ、ノアは使い方が分からないか。ほら、ここをこうやってこうやるんだ」
俺は持ち方と切り方をノアの前でゆっくりと見せてあげた。ノアは時間はかかったが、見よう見まねで何とか切ることが出来た。その時に、俺の手元と、自分の手元を高速で交互に見る光景は中々面白くて、思わずクスリと笑ってしまった。
ノアは、切ったハンバーグを口にすると、目を細めて笑った。
「美味しい……」
ノアはそう言うと、爆速で残りのハンバーグとご飯を食べ進めた。
俺も軽く対抗心を燃やし、早く食べ進めたが、ドラゴンであるノアに勝てるわけもなく、途中であきらめた。
「なあ、そう言えばノアって人の状態の時は食べる量が減ったりするのか?」
もし人の状態でもドラゴンと同じくらい食べるとしたら食費は……うん。考えたくもない。
俺の質問にノアは「もちろんこの姿の方が食べる量は少ないよ」と言った。ただ、人の姿になるだけで食べる量が減るのかについてはノアでも詳しいことは分からないとのことだ。
「ふぅ……美味しかったな」
「うん。人間の食事は絶品」
俺たちは月明かりと街灯のみが照らす夜道をのんびりと歩いていた。
「そろそろ宿に行くか……ただ、金がなあ……流石にノアと同じ部屋で寝るのはあれだし……」
俺が小声で宿について悩んでいると、ノアが俺の手を優しくつかんだ。
「同じ部屋だと何でダメなの?」
ノアは首をコテンと横に傾けながら、不思議そうに言った。まるで、「1+1は2でしょ?」と聞くような感じだ。
「えっと……それはね。人間だと親密な関係でもない限り、男女は違う部屋で寝るんだよ」
そう言うと、ノアは更に首を
「え? 私とカインは友達でしょ?」
「ええと……ああ、そうだな。部屋は同じにするか……」
ここでノアに「友達は親密な関係ではない」なんて言えるわけがない。そんなことを言ったらノアは落ち込んでしまうだろう。そう思った俺は諦めたかのような顔をすると、頷いた。
「すいません。二人部屋は空いていますか?」
宿に入った俺は、受付にいる宿に主人に聞いた。
「あ、悪いけど二人部屋は満室だね。一人部屋ならいくつかあるけど……」
残念ながら二人部屋は空いていなかった。だが、ここに来るまでに何件か宿を回ったが、どこも全部屋満室だった。
「う~ん……ノア、どうする? 一人部屋はベッドが一つしかないから別々の部屋にならないといけなくなるが……」
「ん? 別に二人で一緒に寝れば問題ないよ」
ノアは当然のように一つのベッドに二人で寝る案を取った。
「あ~……うん。分かった。じゃあ、部屋一つ頼む」
俺はそう言うと銅貨六枚を手渡した。
宿の主人は枚数を確認すると、「いい恋人じゃねぇか」と笑いながら部屋の番号が書かれた鍵を渡してくれた。
俺は苦笑いしながら鍵を受け取ると、部屋へ向かった。
「……ま、値段通りって感じだな」
部屋には小窓とベッド、そしてシャワー室があるだけの簡素なものだ。貴族であった俺からしてみればボロいと言いたくなるような部屋なのだが、意外にもそこまで気にならなかった。
「はぁ~疲れた」
俺はそう言うと鎧を脱いで、鎧はベッドの横に置いた。そして、剣も外すと、その横に置いた。
「じゃあ、ノアは先にシャワー室で体を洗っておいてくれ。俺は休んでいるから」
「分かった」
ノアはコクリと頷くと、俺の目の前で服を脱ぎ、シャワー室に入っていった。一応危険を察知して素早く視線を横にそらしたので問題はない。
その後、シャワー室から出てきたノアに、前のクモ糸の余りで作ったタオルを目をそらしながら手渡すと、俺も服を脱ぎ、シャワー室に入った。
「はぁ~さっぱりした」
俺はそう言うとベッドに入った。そして、それに続くようにしてノアも入ってくると、俺の右腕を抱き枕にした。
「カイン。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
心臓の鼓動が早くなるのを感じつつも、俺は意識を手放した。
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