第二話 デートのように見える散歩
「ノア、あれが街だよ」
ニ十分ほど歩いたところでゲルディンを囲む石造りの塀が見えてきた。
「凄い……」
ノアは立ち止まると、口をポカーンと開けながら、塀を眺めていた。
何も言わずに暫く見せてあげようと思ったが、口から
その言葉で我に返ったノアは、顔をリンゴのように真っ赤にさせると、口元をゴシゴシを拭いた。
そして、俺の方に視線を移した。
「カイン。何も見なかった。いいね?」
ノアは俺のことをジト目で見つめると、俺の右腕をそれなりの力で引っ張った。
「カイン。早く街に行こう」
「わ、分かったからもう少し力を抑えてくれ!」
腕が千切れそうと言うのは大げさだが、それでも結構痛い。
だが、ノアは一切力を弱めることなく、俺を街の方に連れて行った。
「え~と……荷物は問題なさそうだな。通ってよし」
俺とノアは荷物検査をしてからゲルディンに入った。
荷物なしで街に入ると逆に怪しまれるので、俺は鎧を着けた状態にして、剣はロックコングの毛皮から〈創造〉で作ったさやに入れて、腰につけておいた。これで、誰がどう見ても成人したばかりの冒険者と、その
「さあ、ノア。これが街だよ」
「ここが街なんだ……凄いなあ~」
ノアは口元を手で触りながら街並みを眺めていた。
ノアにとっては見るもの全てが新鮮なものだ。なので、ノアは子供のようにはしゃぎながらあちこちを見ていた。
俺はそんなノアを和みながら眺めていた。
「ねぇ、カイン。あれ食べたい!」
ノアが突然こんなことを言い出した。ノアが指を指す方向に視線を向けると、そこには屋台があった。
そこから流れてくる串焼きの匂いが俺にあった僅かな空腹感を大きくする。
「分かった。俺も食べようかな」」
そう言うと、俺はノアと共に屋台に向かった。
屋台では、おじさんが黙々と串焼きを鉄板の上に置いて焼いていた。
「おじさん。串焼き二つください」
俺は小銅貨二枚を手渡しながらそう言った。
ちなみに今の俺は
懐事情に頭を悩ませている間に、おじさんは串焼きにたれをかけてくれた。
「まいど」
俺はおじさんから串焼きを二つ受取ると、片方をノアに手渡した。
「ほら、これが串焼きだ」
「ありがと」
ノアは串焼きを受け取ると、それを宝物を見るかのような目で見つめた後に一口食べた。
「……おいしい。ねぇ、カイン。これって何の肉なの?」
「ん~と……これはミノタウロスの肉だな。あの角が二本生えた二足歩行の魔物で、よく棍棒を持っている魔物だよ」
俺は串焼きを一口食べると、何の肉なのかを一切の迷いもなく言った。ミノタウロスは危険度C+の魔物で、肉がとても美味しいのが特徴だ。貴族の食事にもよく出てくる為、俺は直ぐに言い当てることが出来たのだ。
それを聞いたノアは目を見開いた。
「そうなんだ~確かにあれは美味しいよね。でも人間の手が加わるだけでこんなにも美味しくなるなんて……」
ノアは目をキラキラさせながら残りを一気に頬張り、ものの一分で完食してしまった。そして、食べ終わるや否や、俺の残りの串焼きをジーっと見つめてくる。
「……ほらよ」
俺は諦めたかのようにため息をつくと、半分ほど残った串焼きをノアに手渡した。ノアは満面の笑みで「ありがと」と言うと、それを受け取った。そして、その串焼きもどんどん食べ進め、直ぐに完食してしまった。
「ありがとう。これで夢が一つ叶った」
ノアは花が咲き誇ったかのような笑みを浮かべると、俺の右手を優しく握った。
そして、その様子を見ていた道行く人々は羨ましがるような、嫉妬するような視線を俺に向けてきた。
(確かにこの光景って
俺とノアの関係はあくまでも友達だ……たぶん。
「じゃ、そろそろ他の所に行くか」
「うん」
そう言って、互いに手を繋ぎながら別の場所に行こう。と、思ったら――
「おい! いい身分だな、ガキが! イラつくから恋人置いて消え失せろ」
いきなりモブキャラみたいなセリフを吐きながら近づいてきたのは防具を着て、腰には剣を刺したガラの悪い男冒険者だ。そして、こいつの仲間が二人、こいつの後ろにいた。
(うわ、めんど……)
俺はこいつらを見て、思わず頬をひきつらせた。だが、この男が次に何か言いかけた瞬間、いきなりこの男が
横を見ると、ノアがこいつの
「私とカインの散歩の邪魔をしないで」
ノアは冷たい視線を三人に向けながら冷たい声で言った。
「あ、ノア。ちょうどいい手加減だったな」
ノアが本気を出せばこの男を数十メートル先まで蹴り飛ばすことも容易だろう。それを考えれば、ノアは相当手加減をして蹴ったのだろう。
「うん。怒りで我を忘れるようなことは二度と起こすつもりはない」
ノアは小さい声で、力強く言った。
「く……おい、やれ」
脛を蹴られた男がそう言うと、今度は後ろの二人が俺に殴りかかってきた。ノアが殴ろうとしたが、それを俺が手で制した。
「後は俺にやらせてくれ。〈創造〉ガントレット」
俺はそう宣言すると、〈創造〉で両手に鉄のガントレットを作った。そして、男二人が振り下ろした腕を正面から殴ってボキッと音を鳴らすと、間髪入れずに脛を蹴って跪かせた。
「ぐ……く……」
「い、痛ぇ……」
二人は折られた腕を、もう片方の手で押さえながらもがいていた。
その後、俺は〈創造〉でガントレットを塵にした。
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