第四話 上を目指す

 古代大洞窟の奥深くに落とされた俺は復讐心を胸に立ち上がると〈創造〉で鉄剣を作り出した。

 ここの魔物相手には焼け石に水だが、ないよりはマシだろう。


「……俺が今までに考えたスキルの使い方。どれ程通用するのだろうか……」


 俺は今まで机上とは言え、様々な活用法を発案している。これらを死に物狂いで極めればあのくそ野郎どもにも勝つことが出来ると思っている。


「じゃ、まずはこの危険地帯から出るとするか」


 そう言うと、俺は〈創造〉で緑光石りょくこうせきを作り出した。

 緑光石は鉱石の一つで、エメラルドグリーンに光るのが特徴だ。

 俺はこれをランプとして使うことで周囲の状況を把握した。


「うーん……見た感じは普通の洞窟だな……」


 俺が落ちた場所はかなり開けた場所だった。

 幸いにも、近くに魔物はいないようだ。だが、油断は禁物なので、常に気配を探っておこう。

 そして、上を見上げるとドラゴンが口を開けたような大穴が開いており、それが上に続いていた。


「俺ってどのくらい落ちたんだ?」


 大穴に落ちるのを防ぐ為に木材を穴の入り口に置いたせいで洞窟の入り口から差し込む陽光が見えない。


「んー上にあげてみるか」


 俺は緑光石を〈操作〉で上に上げることで、どのくらい落ちたのかを確認しようと思った。

 しかし、上げている途中で動かせる範囲をオーバーしてしまい、確認は出来なかった。

 だが、今の俺は〈操作〉で動かせるのは自分の位置から百メートル以内なので、俺は少なくとも百メートルは落ちたことになる。


「めっちゃ落ちたな俺……」


 我ながらよく助かったなと思いつつ、俺は緑光石を手元に戻した。


「では、上に行くか」


 そう言うと、俺は今着ている鎧を〈操作〉で上に動かすことで疑似的な空中浮遊をすることで外に出ることにした。

 因みに、自分の体重を〈操作〉で空中に動かすことが出来る人はほとんどいない。

 これは自分でも苦労の賜物だと、誇りに思っている。




「はぁ~もう限界だ……」


 俺は魔力切れになりかけて、これ以上スキルを使えなくなった為、残った僅かな魔力で〈創造〉を使い、大穴の側面の一部を砂にすることで横穴を開け、その中で休むことにした。


「は~魔力量増加訓練は人一倍やったんだけどなあ……」


 魔力というのはスキルを使う為に必要なエネルギーのことだ。

 魔力は空気中に漂う魔素を自然に取り込むことで回復する。

 その為、魔力が切れたら回復するまで待つしかない。

 そこで重要になる魔素を取り込む速度は、体内にためることの出来る魔力量が多ければ多いほど早くなる。

 そして、その魔力量というのは、魔力量増加訓練によって少しずつ増えていく。

 魔力量増加訓練というのは、魔力を使い切るという動作を何度もすることだ。

 そうすることで、徐々に体内に取り込める魔素の量を増やしていくのだ。


「ま、一時間ぐらい休めば完全回復するだろ」


 俺はそう言うとその場で仰向けに寝転がった。


「……それにしても腹が減ったな……」


 水は〈創造〉で作れるのだが、食料は屋敷で何度も試してみたが、作り出すことは出来なかった。


「う~ん……こういう状況だし意外と何とかなったりしないのかな?」


 気楽にそう思いながら、俺は作るのが簡単そうな木の実類を〈創造〉で作ってみた。すると……


「お、出来……たのか?」


 俺の手のひらの上に現れたのはポリプというオレンジ色のフルーツだった。

 本来の四分の一程度の大きさになってしまったが……


「……ま、まあないよりはマシだしな」


 しかし、今ポリプを作ったことで、多少回復していた魔力を全部使ってしまった。やはり作るのが難しいものほど消費魔力量は多くなってしまう。


「はぁ……じゃあ少し寝るか」


 寝れば空腹感も感じないだろうと思った俺はポリプを口に放り込むと、そのまま意識を手放した。





「う、ううん……」


 俺は暫くしてから目を覚ました。


「……あれ?緑光石はどこ行ったんだ?」


 ランプとして使っていた緑光石がなく、辺り一面真っ暗だった。


「まあ、また作ればいいか」


 そう言うと、俺は〈創造〉で緑光石を作り、辺りを照らした。

 だが、俺は周囲に転がっているものを見て、思わず緑光石を落としてしまった。

 緑光石は地面に落ちると、パリンと割れて、光を失ってしまった。


「……ひぃ……」


 俺は恐怖のあまり座り込んでしまった。

 だが、周囲に転がっているものに触れたことで跳び上がる。


「も、もしかしたらさっきのは幻覚なのかもしれないな……うん。きっとそうだ」


 俺はついさっき自分の目で見たものの存在を否定しながら、再び〈創造〉で緑光石を作ると、辺りを照らした。

 だが、そこにあるのはさっきと同じ光景。

 そうそこにあったのは――

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