第五話 油断。それがお前の敗因だ。
俺の周囲にあったもの。それは――
「ひ、人の骨……」
俺の周囲には大量の人骨が散乱していた。
しかも、そのほとんどが折れたり、粉々になってたりする。
「え……ね、寝る前はこんなのなかったぞ……というかここはどこなんだ?」
俺はあの横穴よりも広い空間にいた。
「ど、どういうことなんだ……」
何が起きたのか分からずに混乱していると、近くから「グルルルルル……」という
そして、それと共に奥から姿を現したのは体長三メートルほどの黒い狼だった。
赤く光る瞳が、俺のことを食事と見なしているように見えた。
そして、黒い狼の背後には、体長一メートルほどの黒い狼が俺のことを興味深そうに見ている。
俺はその魔物をみて戦慄した。
「ま、まずいぞ……」
こいつは魔物図鑑で見たことがある。
こいつの名前はブラックウルフ。危険度はS−の魔物だ。
こいつはとてつもない速さで獲物を捕らえ、防具を簡単に破壊できるほどに鋭い二本の硬い犬歯を持っている。更に、こいつは〈空歩〉という空中を歩くスキルを持っている。恐らくそれを使って俺が寝ていた横穴に侵入したのだろう。
「どうするか……後ろにいるのは恐らく子供だよな……だとしたら俺がここに連れてこられた理由って……」
俺はようやくここに連れ去られた理由を察した。
恐らく俺はこの子供のブラックウルフに与える餌として連れてこられたのだ。
そして、生きた状態で連れてこられたのは鮮度を保つ為か――あるいは狩りの仕方を教える為だろう。
「ちっこいつが相手では上に逃げても意味がない。だったら……成功するか分からないがあれをやるか……」
そう呟くと、俺は目に見えないほどの小さな鉄の粒子を〈創造〉で大量に作ると、〈操作〉でブラックウルフの口の中に少しずつ入れた。
ブラックウルフは口の中に少しずつ入ってくる鉄の粒子には気づいていないようで、平然としていた。
「頼むぞ……」
俺は必要量入れるまで、ブラックウルフが襲ってこないことを祈った。
俺は三分かけてようやく準備を終えることが出来た。
俺の祈りが届いたのか、ブラックウルフは俺が準備をしている間はずっと子供のブラックウルフに何かを教えているようだった。
そして、俺が準備を終えたのと同時にブラックウルフの方も話し合いが終わったのか、子供のブラックウルフ二頭がゆっくりと俺に近づいてきた。
だが、準備が整った今、ブラックウルフに勝ち目はない。
「では、体の内側からの激痛に苦しみながら死ぬといい」
俺はそう言うと、ブラックウルフの口の中に入れた鉄の粒子を食道辺りに全て集めて短剣にした。食道の幅よりも短剣の長さの方が長い。つまりブラックウルフはこうなってしまう。
「グ、グガガアアァ!!」
三頭のブラックウルフは短剣が刺さった痛みで苦しんでいた。
そこに俺はさらなる追い打ちをかける。
「これはどうかな?」
そう言うと、俺はブラックウルフの中にある短剣を暴れ牛のように動かした。
「グギャアアア!!!」
ブラックウルフはより一層激しくもがくようになった。
それにしても食道に短剣が刺さるなんて……きっと想像を絶する痛みだろう。
まあ、俺は危うく食われるところだったんだ。そして、勝つためには剣が通りにくい外側よりも体内を狙った方がいい。その為には手段を選んではいられないのだ。
これ以上痛めつけるのは無意味だと思った俺はとどめの一撃を与えることにした。
「では、死ね」
俺はブラックウルフにそう告げると、〈創造〉で鉄剣を作った。
そして、もがき苦しんでいるブラックウルフの首めがけて剣を振り下ろした。
「はあっ」
ブラックウルフの毛皮は硬く、この程度の剣では軽く傷をつけるのが精一杯だ。
だが、生き物の急所である首は例外だ。
こいつの首も硬いと言えば硬いのだが、剣の腕前に自信のある俺ならこれくらい造作もない。
その為――
「グギャ……」
と、きれいにスパッと切り落とすことが出来る。ただ、〈創造〉で作る剣はあまり良い品質のものではないので、少し欠けてしまった。
「まじか……思ったよりもこいつら硬いな……」
俺はブラックウルフの硬さに驚愕しつつも、鉄剣の欠けた部分を〈創造〉で修理した。
「では、残り二体もやるか……」
俺はそう呟くと、もがき苦しんでいるブラックウルフ二頭に近づき、首筋に鉄剣を振り下ろした。
ブラックウルフは首を落とされると、動かなくなった。
ついさっきまで、ブラックウルフの悲鳴が洞窟内に鳴り響いてうるさかったが、首を切り落した途端に静かになった。
「流石に手に触れてないものに〈創造〉を使うと魔力の消費量が尋常じゃないな……」
〈創造〉を手に触れていないものに使うと、本来の十倍以上の魔力を消費してしまう。
「……だが、ブラックウルフに勝てたぞ……」
油断していたとはいえ、S−の魔物であるブラックウルフ三頭と戦って勝てるのは帝国でも十数人しかいない。
だが、俺の復讐対象者の中には、その十数人の中に入るやつもいる。そう、アレンとガルゼルの二人だ。
「やってやる……もっともっと鍛えて……フルボッコにしてやる。例えあいつらが泣いて許しを請いてきたとしても……」
俺は再びそう決意すると、右手には鉄剣を、左手には緑光石を持った。
そして、この洞窟から出る為に歩き出した。
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