第三話 追放と書いて死刑

「やっとお前を追放できる」


 父上からそう告げられた時、俺はようやく理解した。


 この視察の本当の目的は俺を殺す為だということを……


「そ……そんな。父上、兄上!私は何か悪いことをしましたか? な、何もしてませんよ!」


 俺は必死に訴えた。だが、返ってきた言葉は俺をさらに絶望させるものだった。


「あのな。お前みたいな雑魚スキル二つの出来損ないが生きていること自体が罪なんだよ。お前みたいな貴族の面汚しは消えることこそが最大の貢献なんだよ」


 父上からこと言葉を告げられた時、俺の頭の中は「何で?」で埋め尽くされた。


 何で?俺は誰よりも勉強を頑張ってSクラスに入ったんだよ。

 何で?剣術もスキルなしなら学年トップに上り詰めたんだよ。

 何で?スキルだけで俺の存在が否定されなくてはいけないの。


 何で?何で?何で?何で?


 俺は絶望のあまり死んだ魚のような目になった。

 すると、いきなり腕をつかまれ、口を塞がれた。


「あ、ちなみに人払いは済ませてあるから助けは来ないぞ」


 俺はアレン兄上に拘束され、身動きが取れなくなった。


(く……アレン兄上には勝てない……)


 長男であるアレン兄上も〈強化〉のスキルを持っている。そこに恵まれた肉体が組み合わさることで、帝国最強の武人へと生まれ変わる。

 そんなアレン兄上の拘束を俺が抜け出せるはずもなかった。


「じゃ、さっさと歩け」


 アレン兄上によって、俺は無理やり古代の森へと連れていかれた。

 父上とケイル兄上は「ククク」と笑いながら、待機していた護衛と共に俺の後ろをついていった。


(ここが……)


 目の前にあるのは先が見えない真っ暗な洞窟だ。


「ちなみにお前は視察中に勝手に古代の森に行って行方不明になったことにするつもりだ。行方不明の調査に関してはレイン様、ハルス殿、ガルド殿のおかげで来ることは絶対にないぞ。だから安心するといい」


 父上からそう言われた次の瞬間、俺はアレン兄上によって古代大洞窟に放り込まれた。


(まずい、確か古代大洞窟の入り口には……)


 ゲルティンについて調べた時に見た。

 古代大洞窟は入ってすぐの場所に地底深くまで続く大穴があるということを……


「くっ間に合え!〈創造〉木材!」


 俺はその大穴がある場所を木材で塞ごうとした。

 だが、大穴が木材で塞がれる前に、俺は大穴に入り込んでしまった。


(やばい……このままだと落下死する)


 俺は少しでも落下した時のダメージを軽減する為に全身を〈創造〉で作った鉄の鎧で覆った。

 更に、〈操作〉で鎧を上方向に操作して落下速度を少しずつ遅くした。

 本気でやれば数秒で停止することもできる。だが、そうすると落下した時と大差ないダメージを受けてしまう為、この手段を取った。


「頼む……」


 そう思った次の瞬間、俺は地面に激突した。


「がはっ……」


 俺は想像以上の激痛に顔を歪ませながらもよろよろと立ち上がった。

 辺りを見回してみたが、何も見えない。光が届かない闇の世界だった。

 いつもなら一人で真っ暗な所にいれば恐怖を感じるだろう。だが、俺が感じたのは恐怖ではなく怒りだった。


「くっ……何で俺がこんな目に……」


 俺は怒りに満ちた声で呟いた。

 ハズレスキルを持つだけでここまで言われなければならない理由が俺には分からない。

 俺だって望んでそのスキルを得たわけではない。

 ただ、それでも俺はそのスキルの可能性を信じ続けた。

 何年もの間、ひたすらそのスキルを極めた。

 俺は世界一の〈創造〉と〈操作〉の使い手であると自負している。

 それぐらいには頑張ったのだ。

 それなのにこうなった。

 最後に飛んできた家族からの罵詈雑言ばりぞうごんは俺の心を深くえぐった。

 今までの俺の努力をクソみたいな理屈でゴミ箱に放り込んだのだ。


「……父上……いや、もう家族じゃない。それに……あいつらも関与してるとか言ってたな……」


 レイン、ハルス、ガルド。この三人は学園で俺をいじめていたやつらだ。


 この時、俺は変わった。


「……くそ野郎ども……ボコボコにしてやる……」


 この日、俺はあいつらに復讐することを決意した。


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 アレン視点


「やっとハズレ野郎がいなくなった」


 あいつのことはもっと前に殺したかったのだが、帝都内で殺したら犯人は直ぐに特定される。

 帝都は皇帝のお膝元。警備が厳重すぎるのだ。

 かといって帝都の外に連れ出そうにも、この国では治安の関係上、貴族の子息は成人するまで帝都の外には出てはいけないことになっている。


「ま、あいつの絶望する顔が見れて楽しかったから良しとするか」


 一家の穀潰しをこの手で制裁出来たことに俺は喜びを感じていた。

 それにしてもまさかあいつが自分の無能さを自覚していなかったなんて想像もしていなかった。

 あいつが「私は何か悪いことしましたか!」だなんて言ってきたときは自分の耳を疑ったものだ。


「さて、折角ゲルティンに来たんだし身分を隠して散歩するのも悪くはなさそうだな」


 俺は清々すがすがしい気分でそう呟くと、部下から受け取った黒いローブを羽織った。

 そして、のんびりと歩き出した。

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