第二話 喜びと絶望
俺は今日で十五歳。今の俺はとても機嫌が良かった。
何故なら、目の前にあるテーブルには、普段は俺一人分の食事しか置かれないのに、今日はちゃんと家族全員分の食事があるからだ。
「家族みんなと食事をするのは兄上が成人した時が最後だな……」
昔のことを懐かしんでいると、扉が開き、父上を先頭にして家族全員が入っていた。みんななんだかとても嬉しそうな顔をしている。
そして、みんなが席に座ったところで父上はワインが入ったグラスを持ち上げた。
「今日でハズ……カインが成人を迎えた。ついにカインが十五歳になったんだ。こんな嬉しい日はない。さあ、乾杯!」
「「「「「乾杯」」」」」
俺たちもワインが入ったグラスを持ち上げて乾杯した。
(よかった……みんな喜んでくれて……)
俺の成人を家族みんなが心から喜んでいるようで、俺は嬉しかった。
食事を終えたところで父上が口を開いた。
「カイン。お前には私の領地の一部を視察してほしいんだ」
「視察……ですか?」
兄上たちの時はそんなことしなかったので、俺は不思議そうに首を傾げた。
「ああ、将来の為にも領地を自分の目で見ることはとても大切だ。行く先はもう決めてあるから私たちと一緒に行こう」
(え……父上たちと……)
父上たちと出かけたことは今までに一度もなかった。
「わ、分かりました。初めての視察、精一杯頑張ります」
俺は喜びに満ちた声でそう宣言した。
「ああ、頑張ってくれ。出発は四日後の午前八時だからな」
そう言うと、父上は席を立ち、執務室へ仕事をしに行った。
それに続くようにして父上の補佐をしているアレン兄上とケイル兄上も執務室へ行った。
アレン兄上は銀髪に深紅の瞳を持ち、父上のように鍛え上げられた肉体を持っている。豪快な性格で、貴族向きではないが、仕事は文句を言いながらもしっかりこなす。
ケイル兄上は
その後、エリス母上とマリア姉上も食後のティータイムの為に自室へ戻った。
エリス母上は金髪に
マリア姉上は深紅の髪と瞳を持つ美しい女性だ。貯金をすることが趣味なのだが、何故か母上に負けないほど部屋は豪華だし衣類品の数も多い。
そして、俺は嬉しさのあまりスキップしながら自室に戻った。
兄上や姉上の時はこの後プレゼントを貰っていたのだが、俺は貰っていない。
しかし、成人したことを祝ってもらえたことが嬉しすぎて、そのことは頭から抜け落ちていた。
そして、待ちに待った視察の日。
俺はいつも以上に髪を整え、服は視察ということでそれなりの距離を歩くと予想した俺は動きやすいものにした。
そして、誰よりも早く屋敷の門にある馬車の前に着いた。
「初めての視察……楽しみだなぁ……」
俺は今日の為に父上の領地について徹底的に調べ、学んだ。
父上の領地はゲルティンという街で、帝都から馬車で二日の距離にある。
街の近くには古代の森と呼ばれる広大な森がありそこに生息する強い魔物を討伐し、その素材を売ることで収入を得る冒険者という職業の人がたくさんいる。
そして、父上は魔物の素材を買い取り、加工して、帝都に売ることで高い収入を得ている。
「さてと……あ、父上、アレン兄上、ケイル兄上。おはようございます」
俺は馬車に近づいてくる父上と兄上に挨拶をした。
「ああ、おはよう。それにしても随分と張り切ってるな」
父上は苦笑いをしながら挨拶を返してくれた。
兄上二人は「クククッ……」と笑うのをこらえていた。
「はい。視察の日。とても楽しみしていました」
「……そうか。では早速行くとしよう」
そう言うと、父上と兄上の三人が馬車に乗り込んだ。
「よし、頑張るぞ」
俺は気合を入れると、そのあとに続いて馬車に乗り込んだ。
そして、それと共に馬車は父上の領地に向けて進みだした。
「あ、見えた」
馬車の窓から外を覗くと、馬車が進む先に高さ十メートルはある巨大な石造りの塀が見えてきた。
あれは街をぐるりと囲んでおり、古代の森から迷い出て来る魔物の侵入を防ぐのが主な役割だ。
俺たちが乗る馬車はそのまま門を通ってゲルティンに入った。
その後、馬車は街の中を通ってそのまま反対側にある北門まで進んだところで止まった。
(ん?領主館はもっと手前なのに……)
街に入ってからいきなり視察を始めるわけがないのにどうして領主館を通り過ぎるのだろうか。
そのことを不思議に思っていると、父上に急かされた。
「どうした?早く降りるぞ」
「わ、分かりました。申し訳ありません」
そう言うと、俺は急いで馬車から降りた。
そして、俺の後から父上と兄上も降りてきた。
「さあ、最初の視察場所は古代の森にある古代大洞窟だ」
「……え?」
俺は自分の耳を疑った。
古代大洞窟というのは危険な魔物が多く生息する古代の森の中でも別格の場所だ。
あそこに生息する魔物は危険すぎるので、許可証がない限り立ち入ること自体が禁止とされている。
「ち、父上!流石に危なすぎます!」
そう叫ぶと、父上たちはニヤリと笑った。
「ああ、危険だな。だが、今のお前にはぴったりの場所だ」
「ま、せいぜい頑張れ」
「いいお墓だと俺は思うよ」
父上たちの言葉に、俺は死刑宣告を受けたような顔になった。
「あ、兄上……何故……」
思考が追いつかない。
するとここで父上が俺の肩を優しく掴み、こう告げた。
「やっとお前を追放できる」
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