第14話




 ──エギルとフィーが寝静まった静かな夜。

 御殿の一室で、華耶は湖の都の住民から報告を受けていた。




「今回は異大陸の者の加勢で楽に戦えましたね」



 最近では消えていた住民の表情には、笑顔がちらほらと見え始め、戦闘後とは思えないほど疲労感がない。




「そうね。けれど、彼らもずっとここにいてくれるわけではないわ。それに、あの傀儡師と二人の少女がいつ来るかわからないのよ」




 華耶の言葉に、笑顔を見せていた住民たちの表情は曇る。

 するとその中の一人が恐る恐るといった感じで手を上げ発言する。




「……あの、彼らにしばらくの間ここで暮らしてもらって、加勢してもらうのはどうでしょうか?」

「……それは、部外者の力を借りたいということ?」

「そうです。終の国もフェゼーリスト大陸から手を貸してくれる者を呼んだのと同じく、自分たちも彼らの手を借りるんです」

「けれど──」

「──儂は反対だ」




 華耶の言葉を遮るように、側役の男が声を上げ、周囲にいた者たちも賛同するように頷く。




「これは湖の都の問題で、ここは先祖が守り抜いてきた土地だ。その未来を余所者に託すのは違うと儂は思う」




 それに反発したのは、湖の都に暮らす若い男性たちだった。




「……だけど、終の国に助っ人が現れてから以前よりも劣勢になったのは確かで、最近は夜も、いつ襲われるかわからなくて安心して寝られないじゃないですか」

「それは、ほら、あれだ……交代で警備すりゃあ問題ない」

「その警備に当てる人だって、日に日に疲れて倒れてるじゃないですか。……このままだと、いつ滅ぼされるかわからないですよ」

「なんだと!?」




 立ち上がった側役の男は、華耶を見て、




「こっちには華耶様が先代から継承した力があるんだ、簡単に負けるわけねえだろ!?」




 エギルに手を貸すことに賛成なのは若者たちだ。

 彼らは日々、生きるか死ぬかの暮らしにうんざりしており、安息の日々を取り戻したいと思っている。

 一方、反対するのは側役の長老や、長年ここで暮らしてきた年長者たちだ。彼らには誇りと意地があり、先祖が守り抜いてきた場所を、余所者の手で救われるのが嫌といったところだろう。

 終わりのない議論に嫌気が差したのか、若い住民の男は不満そうに小さな声を漏らす。




「……華耶様の力だって、今日は使えなかったじゃないか」

「──長の前だぞ! 口を慎め!」

「やめなさい!」




 若い男の言葉に場が荒れるが、華耶の一声で静まった。




「確かに今日、力を使えなかったことは認めるわ。だけど休めば大丈夫よ……」

「ほ、ほら、聞いたか!? 華耶様の力は、先代がこの地を守ってきた力なんだ! だから──」

「──でも、先代は契約者がいたからずっと守ってこれました。けどいない今は、三日間完全に休まないと力は使えないじゃないですか」

「──ッ!」





 その言葉に、華耶の力に絶大な信頼を寄せていた者たちが口を詰まらせる。




「そ、それは、だな……」

「契約しないと力の源を維持できない。だったら、あんたらが契約して守ってくれよ」

「な、儂らは……ほ、ほれ、こんな老いぼれ連中より、お前ら若い連中の方がいいだろ。華耶様だって、その方が気兼ねなく力を蓄えられるだろ」

「俺たちは……嫌だよ。まだ死にたくねえ」




 若い男の言葉を受けて、側役の男たち年長者は、若い男へと一斉に罵声を投げかけた。




「おい! 死ぬって決まったわけじゃねえだろ!?」

「だ、だったら、あんたら老いぼれ連中が契約しろよ!?」




 住民たちの言い合い。それがただの、押し付け合いに見えるのは華耶の間違いではないだろう。やるせない苛立ちが生まれるが、華耶は冷静になって手を叩く。




「みんな、静かに。もういいわ。エギルさんには手を貸してもらえるように頼むし、私の力も明日には使えると思うから。……今日は解散しましょ」




 華耶の言葉で集会は締められ、バツが悪そうに住民たちはぞろぞろと部屋を出て行く。




「奪い、奪われ、そうしてきたこの大陸の歴史が、こんなにも悲しい心にさせてしまったのね……」




 過去の争い続けた大陸の歴史を見つめるように、華耶はため息を漏らすが、邪念を振り払うように首を左右に振った。




「……そうだとしても、頑張るしかないのよ。誰も手を差し出してくれない。誰にも頼れない。だから私は、自分で頑張るしか……」




 それは決意ともとれる言葉だったが、その言葉とは裏腹に力強さはない。

 その理由は、華耶の脳裏にエギルの姿が映ったから。だがそれを必死に振り払う。

 淡い期待があれば、その期待に手を伸ばしたくなってしまう。


 もしかしたら、彼を殺すことになるかもしれないと知りながら──。








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