第13話




 エギルの力で圧勝となった湖の都では、祝宴があげられた。

 御殿へと帰還したエギルは華耶と二人で食事をとっていた。




「エギルさん、お酒は呑める?」

「いいのか?」

「手を貸してくれたお礼よ。はい、どうぞ」




 木製の入れ物にお酒が注がれる。

 木製の器の底が見えるほど透明感のあるお酒は、微かに花のような香りが感じられた。それをエギルは口に含む。




「……うまいな」

「ふふ、お口に合って良かったわ。うちの自慢のお酒よ」




 味わいは軽快だが、それでも苦みもあり、なにより余香まで楽しめる。




「一緒にどうだ?」




 今度はエギルが注ごうとするが、隣に座った華耶は首を左右に振った。




「私はすぐ酔うから遠慮するわ」

「そう、か……じゃあ頂くよ」




 一人よりも二人で、それに酔えば彼女との仲も深められると思った。けれど、華耶はここの長。何かあればすぐに行動できるようにということだろう。

 エギルはそう解釈して食事を堪能する。

 ここでの食事は野菜や魚が多く、肉は少ない。湖の都では家畜の数も少なく、いても乳牛ぐらいだ。




「このオコメというのも、フェゼーリスト大陸にはなかったな」

「へえ、そうなのね。お米はお酒にもなる、この地で何百年も続いてきた農作物よ」

「そうなのか」




 主食として出されたお米。フィーは知っていたが、エギルは、というよりもフェゼーリスト大陸で生まれた者は口にしたことがない。

 大陸が違えば、食すものも違うということだろうか。それに渡航が禁止されてるから情報が伝わることもない。

 エギルはこの地で堪能できる料理たちを味わいながら、ここにはいないフィーについて触れる。




「フィーも一緒に食べていけば良かったのにな」

「そうね。久しぶりに都を見て回りたいって言ってたわ」

「この大陸は、フィーにとっての故郷なんだもんな」

「大陸はね。だけどフィーちゃんの故郷は終の国よ」

「そうか。なあ、ここでのフィーは、どんな感じだったんだ?」




 あまり深くフィーから聞けなかったエギルは華耶から聞こうとするが、




「フィーちゃんから聞いてないなら、私からは秘密よ」




 笑って誤魔化されてしまった。




「それもそうか。まあ、話しても良くなったら、向こうから話してくれるか」

「かもね。ねえ、二人は出会ってまだ間もないの?」

「まあな」

「そうなのね。……ねえ、エギルさん」

「ん?」




 華耶は食事の手を止めた。




「ここへ来た理由、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」

「え……」




 華耶から話題を振ってくるとは思わなくて、エギルは一瞬だが固まる。

 まだ信頼関係すら築けていないのは理解している。そんな状況で、と思ったがここで話さなければ、永遠に口にできないかもしれない。

 エギルも食事する手を止めた。




「……俺は、フェゼーリスト大陸で王国を作った。数週間前にできたばかりで、人口もまだ全然いない。そこに、湖の都の住民と共に移住してほしい」

「……」

「フィーから聞いた。このシュピュリール大陸には暮らすのに困ってる人が大勢いるって。俺はそういう人を救いたい。自分が救われたように、今度は多くの人を救う、そんな王国を目指してるんだ。だから、もし華耶たち湖の都の者が困っているなら……来てほしい」




 頷きも拒みもしない彼女はただ黙り、エギルの話を聞いていた。




「ここがみんなの故郷なのはわかる。フィーからも、故郷から離れるようなことも、行ったことのない大陸で暮らすのにも抵抗があるだろうとは聞いた。それでも」

「……エギルさん、一つ、聞いてもいい?」

「ああ」

「エギルさんのいる王国に行って、アナタは私たちに何をもたらしてくれるの?」




 何を、それはきっと一つしかない。




「ここよりも十分な住む家と、安全な暮らしができるようにしたいと思ってる」




 今のエギルが提供できることは、それぐらいしかない。




「そこには、湖の都の人口の倍以上ある家屋があって、全員分に当たるはずだ。それに、昼夜問わず狙われるここよりは安全だ」

「そう」




 華耶は短く返事をして、何かを考えてくれてるように俯く。




「エギルさんは、その王国のために必死なのね」

「まあ、そうなるかな。だが俺は何もできてない。みんながいたから、前へ歩けるんだよ」

「みんなが……」

「華耶にもいるだろ? 頼った時、助けてくれる者が」




 長なのだから信頼もあり、支えようと周りも奮起してくれると思っていた。けれど、華耶は少し考えてから、苦しそうな笑顔を浮かべた。




「そう、ね……いるわね」




 一瞬の間だったが、その表情を見れば、今まで華耶が一人で全てを抱え、頼れる者がいなかったことがわかった。

 だがそう感じただけかもしれない。出会ったばかりの華耶のことを、エギルは何も知らない。ただ、なぜ若い彼女が長をやっているのか。親や他の年長者たちはどうしているのか、疑問だけが湧いてくる。

 そして華耶は立ち上がる。




「そろそろ集会があるから、私はこれで……」




 華耶はそう言って扉へと向かう。返事はないか、そう思ったが、ふと彼女は足を止め、




「……エギルさんをまだ信頼できてないから、返事は……もう少し待って」

「それは……」




 華耶の返事は意外にも保留だった。

 即答で断らないということは、湖の都の将来を考える華耶には、エギルの提示した選択肢は悪いものではないのだろう。




「もちろん、信頼してもらえるようにするさ」

「……ええ」




 話が終わると、華耶は部屋を出て行く。一瞬だが見えた横顔は、王国を持ってから続いているエギルの悩み苦しむ時の表情にどこか似ていた。









 ♦










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