第1章 運命の赤い糸

第1話 秘伝 × 2人の女性

海外

~アメリカ~


「クリスティーヌ!」


彼女の名前を呼びながら手を振りつつ、走ってくる人影。


「アンナっ!」


「仕事の時間よっ」


クリスティーヌとアンナは昔からの幼馴染みだ。

家が隣同士だったこと、同じ日に生まれたことから、家族ぐるみで仲良くなり、今や同じ仕事をする仲になった。


当然、喧嘩をしないといったら嘘になるが、喧嘩をしても、ちゃんと仲直りできる関係だ。


クリスティーヌ家は、祖父の時代から代々、特殊メイクを行うことを生業としていた。ホラーハウスや、宇宙もの映画、死体、架空生物、その他ありとあらゆる作品にクリスティーヌ家が関与している。


クリスティーヌ家は、昔は医者の家系だった。

四代目の時に、人体・動物の骨格、関節の回転角や、筋肉の動き、その全ての解析を終え、特殊メイク業を起業した。


その時代には、クリスティーヌ家は犯罪者を国から提供してもらい、人体解剖をしていたという噂も当時は流行したぐらい研究熱心だったようだ。


だが、事実はうやむやである……


その点については曖昧だが、事実としてクリスティーヌ家は、地下倉庫に大量の研究書物を有している。


本来はクリスティーヌ家の血を引く者にしか、その書物は閲覧できないのだが、アンナだけは許された。


幼馴染みだったという理由だけでなく、アンナ家も医者家系だった。

そのため、彼女たちが知るよしもない所で、父母同士も意気投合し、アンナはクリスティーヌと同等の権利を得ることになった。


……


今日は有名アニメ実写化用のゴブリン的なものを作り上げる依頼を受けている。


下準備は既に終わっている。演者の身長や、体重、各関節廻りのサイズや長さなど全て事前に計測済みだ。


それに合わせて、肥満体型を作り上げる脂肪に代わる超軽量人工ゼリー(クリスティーヌとアンナはfatファットと呼んでいる)で出来た前開きのない深緑のベストを次々と下着姿の演者に被せていく。


fatファットは、実は銃弾を防げるぐらい弾力性があり、接着剥離性もよく、肥満体型を作れるだけでなく、バストアップ等にも利用できる。

調合によっては筋肉さえ再現可能だ。

料理でいうなればまさに万能調味料である。


後は薄い布のような人工皮膚を本物の皮膚とfatファットの間にはっていく。


それが終わった演者は、腰まで入る深緑の細長いプールを歩かされる。ここには速乾追従性のある液体(クリスティーヌとアンナはliquidリキッドと呼んでいる)が浸されている。


プールが終わった演者はもう顔以外既にゴブリン的なものになっている。


アンナが次にヘルメットを被せていく。

もちろんヘルメットといっても薄い深緑の人工皮膚でできていて、既にとんがり耳もついている。


とんがり耳には穴も空いているため、きちんと声も聞こえる。


クリスティーヌが最後に顔を人工皮膚で覆えば完成する。


そう、彼女達の凄さは手際のよさとその完成度なのだ。


もちろんクリスティーヌ家秘伝のfatファットliquidリキッドがあればこそなのだが、幼馴染みでお互いの思考を理解しているからこそなせる業だった。


……


わたしたちは2年後、家電製造会社を買収する。


冷蔵庫や洗濯機を量産する。

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