第2話 映画 × 『cr』『a』とエリクサー
クリスティーヌとアンナはお互いを見合い、ウインクする。
完成度、処置時間、共にお互いが満足したときの合図のようなものだ。実は最初の時期は、正直お互いが満足しない仕事もあったが、現在では「今日の仕事は終了よっ!」という合図になっている。
特殊メイクを使用した著名な映画は、全て彼女たちが関わっていたりする。もちろん、支払能力がある映画が大前提ではあるが。
それなのに、彼女たちが表舞台に出ることは一切ない。理由は、クリスティーヌ家の秘伝を他に漏らさないためだ。
当然、映画関係者もそれを重々承知の上で依頼し、演者達にも徹底的にルールを縛っている。
一昔前には「情報を漏らしたら暗殺される」との噂もあったほどだ。
だが、事実はうやむやである……
ちなみにだが、処置をした時点で仕事は完了している。
では、どのようにして、演者はもとの姿に戻るのだろうか?
演者は撮影が終わると、トラックの荷台に積まれた黒い液体(クリスティーヌとアンナは
そうすると特殊メイクは全て溶けてなくなる。
たったそれだけ。
トラックの運転手は、クリスティーヌ家の執事兼運搬係であるベンである。
だから、彼女たちの仕事は既に完了しているということになる。
クリスティーヌとアンナはうきうきした気分で帰宅する。彼女たちが仕事を要領よくこなす理由がそこにはあった。
クリスティーヌとアンナは「14時ね」と約束し、お互いの家に帰る。お互いの家といっても隣同士で窓を開けたら、姿が見える距離の部屋にいる。
14時。
パソコンを起動し、チャット画面を開く。
クリスティーヌのハンドルネームは『cr』。
アンナのハンドルネームは『a』だった。
2人は幼い頃から同じ時間を共有してきた。
そのため、クリスティーヌとアンナに同じ質問をすると、同じ回答が帰ってくる。
しかし、彼女達はそれで良いとは思っていなかった。
仕事をするにも分担して業務を行うから、厳密に言えば全く異なる作業をしている。
そのため、彼女たちが考えた結果、相手の思考を読むことが大切だとの結論に達した。
そこで頻繁に利用するようになったのが、議論チャットだった。もちろん、他の参加者もいるから、他人の思考を読んだりお互いの思考を読んだりしながら、好き放題話す。
単純に2人とも楽しかった。それも、長続きしてる要因だった。
今日の議題は『エリクサー(万能薬)は作れるか』
『cr』、『a』共にanswerは『yes』だ。
ただ彼女たちの知識では伝説とは異なって、不老不死の力はなく、人工皮膚を使用して塗れば傷が治る薬、飲めば臓器が回復する薬という定義が大前提だった。
ただし、クリスティーヌ家の秘伝なので、ここではそれは言えない。それがまた2人を楽しくさせる。
エリクサーは宇宙にありそう。
エジプトのビラミッド探せばでてくるんじゃない?
すぐに治らなくていいなら、バファリンとかを改良すれば。
『cr』はアメリカの論文を引き合いに出し、『若い人間の血液から、作れるのではないか』
『a』は東洋医学を引き合いに出し、『漢方薬を全て集めて、再研究すれば作れるのではないか』
もっともらしい発言をする。2人ともお互いの答えを見て、クスクス笑っている。
だが、今日は様子が違った。
ある者が恐るべき発言をした。
『答えはyes。エリクサーは作れる。ありとあらゆる薬を混ぜればいいんだ。これからも新しく作られるであろう薬も含めて。これ以外でもエリクサーは既に存在してる。それは、愛する人の笑顔と共に過ごす時間』
もっともな意見だ。そもそも薬という前提をもってしまった自分に恥ずかしささえ感じる。
クリスティーヌもアンナも恥ずかしくて、自分の顔が真っ赤に染まっているのがわかる。
確かに愛する人の笑顔と共に過ごす時間は万能薬だ。
仕事で疲れていても、ファミリーとの時間が癒してくれる。
今日の結論は、すぐに出た。
そこに反論するものは誰もいなかった。
ただ、クリスティーヌはある疑問を抱いていた。『これからも作られるであろう薬』についてだ。
この人間は未来を予知しているのか?
そもそも私達のような家系がいることを知っているのか?
他にも私達のような秘伝を持つ種族や家系があり、その仲間なのか?
考えるだけで少し恐ろしくなった。
……
わたしたちは2年後、遊園地運営会社を買収する。
ゴブリンやドラゴニュートを量産する。
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