第3話 ○○の独白

「なんで死んだんだよ。」


 君は今きっとこう思っている。だけどさ、それは、僕が君に対して思っていることと同じだ。そして、誰かが僕に対して思っていることと同じだ。

 

「そうちゃん!みっちゃん!」


 僕が理解できたのは、“それ“をみてから数分後。二人が飛んでからそこへ駆けた。

 だが時既に遅し。屋上のフェンスから下を見ると、そこには真っ赤に染まった二人がいた。。

 それからどうやって帰ったのかも分からない。気がつくと自分の部屋にいた。そして、ロープを首にかけていた。意識がはっきりした頃、僕はすぐさまロープをとった。だけど、死にたいって思ったのは事実だ。その夜は眠れないまま寝た。


 次の日、僕は気分が乗らなかったが、母親に「行きなさい。」と言われたため行った。

 通学路、周りを全く見ずに僕は行った。途中、事故に遭いそうにもなった。でも未遂だった。きっと僕は、どこか死ぬ口実が欲しかった。自分では死ねないくせに情けないやつだ。

 学校に着いた。どこか重たい足を引きずりながら、教室へ入った。そのとき僕が見た光景は、二人の机の上に菊の花、黙祷している生徒たち、「奏」と言って泣いている生徒たちだった。


「なんで誰もみっちゃんのこと言わないの……?そうちゃんはみっちゃんを守ろうとしたんだよ……?」


 僕は独り言のように言った。そんな小さな声を誰かが聞いていたのだろう。


 「そうか、アイツのせいで奏が……。」


なんて声がたくさん聞こえる。みんな否定しないでよ。そうちゃんの死んだ意味を否定しないでよ。みっちゃんが生きていた意味を否定しないでよ。そうちゃんが守ったみっちゃんを否定しないでよ。


 その言葉を聞きたくない僕は屋上へ逃げた。このまま聞き続けていたら、僕も否定しそうになる。そうちゃんもみっちゃんも大好きだ。だけど、みっちゃんが死ななければ、みっちゃんがいなければ、なんて考えが僕の頭をよぎる。

 あのあと少し考えるようになった。もし死のうと思ったのが僕で、そうちゃんとみっちゃんで僕の自殺現場を目撃したら?そうちゃんは助けてくれてたのか。答えは“否“だ。だってそうだろう。好きな人がいるのに死にたくたい。そうちゃんならそう考える。それでいいと思った。それでいいはずなのに。


「どうして僕は泣いているの……?」


 幼馴染だった僕たちの関係に、余計な感情を持ち込んだのは僕だ。その感情に気づいてから、男だった僕は、女になろうとした。そういう手術もあるみたいだけど、お金も勇気もない僕にはとてもじゃないができなかった。だから、せめて外見だけでも女になろうとした。その甲斐あってか僕はよく女に間違われるようになった。嬉しかった。女だって思われた。だけど、僕のことをよく知っているそうちゃんには、女だって思われない。男としてしか見てくれない。それが、僕にはとても嬉しくてとても悲しかった。

 

 そうちゃんがみっちゃんのことが好きって気づいたときから、僕はこの感情を消そうとした。だけど消えなかった。それどころか、みっちゃんに対してのモヤモヤな気持ちが大きくなっていくばかりだった。


 僕はフェンスを乗り越える。この世の中にはニ種類の人間がいる。愛されている人間と、愛されていない人間。僕は、愛されていない人間だ。だったら死んでも問題はない。「そんなわけ無いだろ。」って誰か思うかもしれないけど、それは単なる綺麗事で、本心から死んでほしくないと思っている人なんてとても少ない。思っていたとしたらそれは、ただその後が面倒くさい教師たちばかりだ。僕はゆっくりと飛んでいく。二人が死んだこの場所で。


「そうちゃんのことが、ずっと好きでした。」


 今はもういない大好きだった人の名前を呼ぶ。僕はゆっくりと地面と近づいた。そして、激痛を全身で感じ、意識を手放した。



「えっここは!?僕は死んだはずじゃ……!?」


「落ち着くのです人間。貴方様は先程お亡くなりになられました。そして、ここは天界です。私は天使のミモザです。貴方様、なにか死後にしたいことは御座いませんでしょうか。」


 天使が僕に問う。僕はそれに答えた。


「碇奏と花見瑞希に会いたい。です。」


 ミモザさんは笑って答える。


「あはは、無理に敬語を使わなくても大丈夫ですよ。最近は多いんですよね。前世の人間と会いたいと願う人間。」


 ミモザさんの堅苦しい口調がなくなった気がする。


「法律上ではだめなんですがね。前例も2件程あるみたいですし、アジサイ様に会いに行きましょう。」


 僕たちは神様らしい、アジサイ様と呼ばれる人のもとへ行った。道中、他愛もない話をした。そして、僕たちは少し仲良くなったのかもしれない。


「着きましたよ。」


 そこには、大きく、迫力がある建物があった。

 僕たちはその建物のドアの前へ行った。

 コンコン。ミモザさんがノックをする。


「アジサイ様。第二位天使ミモザが参りました。どうか扉をお開けください。」


「よかろう。入ってこい。」


 アジサイ様って声高いんだな。もっと低いと思っていた僕は少し驚いた。

 僕たちは中へ入った。そこにいた幼女には驚かないようにしている。


「なぜ儂と会うと皆そんな反応をするのじゃ。」


 バレてたかな。そんなことを考えているとミモザさんが言った。


「今回はこちらの人間についてお話が御座います。こちらの人間が、前世で会いたい人間がいると申しておるのです。どうか、会わせてはくれませんか。」


 アジサイ様が少し考え込む。その間僕はずっと心臓がドキドキしていた。アジサイ様が出した答えとは……。


「よかろう。ただし条件がある。」


 どんなことだってする。君たちに会うためなら。そう思った。


「天使になれ。お主ほどステータスと絶望に恵まれた人間もそうはおらん。こっちも人手不足でな。いや天使手不足か。お主の会いたい人間とやらを探しながらこっちに戻ってこい。」


 もっと酷いことを想像していた。案外楽かもしれない。


「今案外楽かもしれないとか思ってるな。楽ではないかもしれぬぞ。」


 楽じゃないんだな。それでも、二人に会えるのなら僕はやる。


「やります。」


 そう言うと、アジサイ様は僕に魔法のようなものをかけた。


「今のは猫化と言って、万が一人間が暴れたとき、すぐに対処できるようにしたものだ。天界のものにのみ与えられるものじゃ。頭の中で使うことをイメージするといい。そしてその耳と尻尾はバレないようにしろ。」

 

 アジサイ様は微笑んで言った。


「それがお主の答えじゃな。楽しんでこい、人間。第二位。」


 すると、突然辺りがひかった。空中をふわふわ浮いている感覚がして、気持ちいい。気持ち良すぎて眠くなって……。


 彼らが異世界へ言った。


「お主は本当に恵まれておる。こうも揃って異世界へ会いに行くとは。きっと会える。ちゃんと会えるように、神様にお祈りするんだぞ。」


 うっ、ここは……?

 僕は急いで起き上がった。


「異世界だ……!」


「そうですね。」


 何故か、ミモザさんもいるが、そこはツッコまないことにした。

 広い、広い緑。ここで僕は二人を探す。


 僕たちの異世界スローライフのスタートだ!!

 







 



 




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