第2話 イカリソウの神頼み

「花見瑞希を探しに行く、っすか。無理な話っすよ。」


「はぁ?なんでだよ。」


「前世に会ったことのある人と転生後会えない、それだけっす。んな都合のいい話あるわけないでしょう?」


 前世で会ったことのある人と転生後は会えない。じゃあもうみっちゃんとは会えない……?


「……………」


「……あまりおすすめはしませんが、一つ、会えるかもしれない方法ならありますよ?」


 みっちゃんと、会える。それだけで、どんなことでもしようと、そのとき俺は思った。


「……教えてくれ。」


人間あんたらからすると、神様にあたる存在なんすかね、アジサイ様に会いに行きます。決して無礼なことはしないようにお願いします。」


 アジサイ様……そいつに会えばみっちゃんに会える……。


「行こう。」


「はい。」


 一筋の希望の光を追って、俺たちは行く。



 ……しばらく歩いたのだろう。しかし、一向につく気配はない。こいつとの間に会話もないから気まずい。できれば早めに着いてほしいところだ。


「奏さん、あなたは瑞希さんと会えるなら死ねる覚悟はありますか?」


「あるよ。あるからこうして来たんだ。」


 そう言うと、イバラは少し笑った気がした。


「着きましたよ。」


 良かった。この気まずい空間から開放される。

 その建物を見てみると、大きい。とにかく大きかった。 

 俺が眺めているうちに、イバラがその建物に行ったので、俺もイバラについていった。


 コンコン。イバラがノックする。


「アジサイ様。第一位天使、イバラです。今日は、アジサイ様にお話があって参りました。お入りしてもよろしいでしょうか。」


 あのイバラが完全にやる気モードになっている。一体アジサイ様ってどんな神様なんだ……?


「よかろう。入ってこい。」


 うん?心なしか声が少し、いやだいぶ高い気がする。

 イバラに着いていき、俺も中へ入っていった。するとそこにいたのは……


 “猫耳幼女“


 え?神様ってこの子?他には誰もいないし……。


「アジサイ様。この人間についてのお話が御座います。」

 

 本当に神様だった。いや今はそんなことどうでもいい。


「アジサイ様。俺は碇奏です。どうか俺とみっちゃん、花見瑞希を会わせてください。」


 俺はそう言ってアジサイ様のもとへ駆け寄る。途中イバラが「無礼な行為はしないでください。」と言って止めてきたが関係ない。みっちゃんと会える最後のチャンスなんだ。


「第一位、人間、落ち着け。別にお主が良ければ儂は合わせてやってもいいのじゃよ。」 


 案外あっさりと承諾したアジサイ様。俺は嬉しいと思う気持ちの反面、なにか企んでいるのではないかと疑っていた。


「ただし、一つ条件がある。」


 俺は、お前にずっと謝りたかった。気づいてやれなくてごめん。俺は、お前にずっと感謝したかった。俺といてくれてありがとう。


「きついものになるぞ。」

 

 どんなことだって受け入れる覚悟はある。


「お前と彼女がその世界で出会ったとき、お前は死ぬ。正確には、お互いがお互いに認識できたときだ。」


 だから……


「世界がどんなに残酷でも、俺はお前に会いに行く。アジサイ様、会わせてください。」

 

 しばらく沈黙が流れた。そして、アジサイ様が口を開いた。


「よかろう。それがお主の答えというならば儂はそれを承諾するまで。お主自身の命をもかけて想い人を探す人間よ。行ってこい。」


 アジサイ様がそう言うと突然辺りが光った。

 あれ、俺なんかだんだん眠くなって……




 彼らが異世界へ行った。

 儂はまだ認めたわけではない。ただ、いつか儂に認められる人間に成長すると思っただけだ。


「お主のその一途の愛を大切にすると良い。その気持ちを大切にしていれば、きっといつかその気持ちが神までも従わせるものになるだろう。そうなったとき、儂がお主を認めたとき、お主の願いはきっと叶う。楽しんでこい、人間、第一位。」


 


 うーん、俺は何してたんだっけ。確か死んで、天界に行って、それから眠くなって……そうだ!ここは異世界だ。ここで彼女を探すんだ。

 でも異世界とはいえ探すあてもないし、どうすればいいんだ。適当に旅しながら?いやでもそれじゃあ生活もできないしな。しかも今俺は広い、

終わりの見えないような草原にいる。


「奏さん。」

 

 後ろから声が聞こえた。声の主はイバラだった。


「えっなんでここにいるんだ、イバラ!?」


「俺の方こそ聞きたいっすよ。今までは人間だけ飛ばされてたのに、なんでまた急に異世界に飛ばされるんすかねぇ。」


 「なぁイバラ。」


 天使なら何か知っているかもしれない、僅かな希望を持って聞いた。


 「みっちゃんは今どこにいる。俺たちはこれからどうすればいい。」


 イバラはどこか遠くを見ながら言った。


「瑞希さんは知らねーっすよ。これから適当に生活しながら探しゃーいいんじゃねぇっすか。」


 イバラが適当なことをいうので、俺は呆れたように言った。


 「お前なぁ、また適当なこと「適当じゃない!」


「適当な気持ちで適当なこと言ってない!本気で適当に言っているんだ!」


 イバラが顔で遠くを見ながら言った。鼻をすする音が聞こえたので多分泣きながら言っているんだと思う。


「すみません。ちょっと嫌なことを思い出してしまいました。」


 そう言って、イバラは顔は見せずに俺から離れる。イバラの過去。天使の過去。俺はただ単純に知りたいと思ってしまった。


「なぁ、お前は過去に何があった?天使って一体何なんだ。教えてくれよ。」


 イバラの歩く足が途端に止まる。そして、意を決したように、イバラは言った。


「……天使は、もとはただの人間。ただ一つ違うことは神に選ばれた人間だということ。天使になった人間は、猫化し、人間が暴れたときにすぐ対処できるようになる。それから天使の職をし、上り詰めたものが第一位を最上とする名を授けられる。」


 天使は、人間。天使なんて名はあるが、本質は俺らと変わらないただの人間。


 「俺の昔話は、俺がアンタを認めたとき、話します。」


 今まで大きく見えていたイバラの背中が、少し小さくなったように思えた。


「それじゃあ、行きますか。適当に旅しながら、適当に探しましょう。」


「おう!」 


 今目の前にいるのは、俺らと同じただの人間。決して特別なものなど何もない。だが俺はその事実に少し安心している。やっと俺と同じ土俵に立ってくれたからだ。


 ”適当に旅して適当に生きる”


 俺たちのモットーだ。俺はまだ何も知らない。あいつのことも、この世界のことも。だけどこれからゆっくり知ればいいじゃないか。

 

 俺たちの異世界スローライフのスタートだ!!



 

 







 


 

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