イカリソウの想い人探し

アオイ

序章 異世界転生編

第1話 イカリソウの異世界転生

 世界がどんなに残酷でも、俺は彼女に会いに行く。



 春、桜舞い散るこの季節に俺たちは桜川高校へと入学した。そして、今日が記念すべき初登校日だ。期待と緊張を胸に俺はドアを開ける。


「おはよう!」


 返ってきたのは、たくさんの「おはよう」の声だった。


 俺がついた時間はギリギリらしく、俺は黒板に貼ってある座席表を見て席に座る。そして、隣の席の人に挨拶をする。


「おはよう。俺は碇奏イカリソウ。君は?」


「あの、わた、私は、花見瑞希はなみみずきです。よろしくお願いします。」


 緊張しているのだろうか。

 俺がそう考えていると、教室のドアが開いた。


「お前らー席につけー。お前らの担任の花城正舞はなしろしょうぶだ。早速だがお前ら二人か三人組になれ。お前らの親交を深めるために遊んでもらう。」


 大半の生徒は困惑している。まだ多くの人は友達がいないだろう。


「花見さん、一緒に「そーちゃんやろー!」」


 やっぱり来た。


「あれ、そうちゃん花見さんとやるの?」


「え、なんで私の名前……。」


 こいつは記憶力の化け物なのだ。一度見たことは絶対に忘れない。だからテストでこいつに勝てる人はいない。


「僕クラスみんなの名前もう覚えたんだ!あっ僕は明石冷あかいしひやし。そうちゃんの許嫁フィアンセだよ!僕たち3人で組もーよ。」


「俺はお前の許嫁フィアンセじゃないし、お前はそもそも男で俺も男だ。こいつは俺の幼馴染みだ。」


 花見さんの理解の限界なようだ。もう顔が溶けかけている。


「とにかく!3人で組もう。よろしくね!」


「よーしお前ら組み終わったか。じゃあそのペアで一時間目は遊べ。以上だ。」


キーンコーンカーンコーン。チャイムの音が響く。休み時間に入った。


 しかし、みんな席についてシーンとしている。この中遊ぶのは気まずい。


トントン。隣から肩を叩かれた。


「碇さん、私、碇さんと明石さんと友達になりたいです。」


 大人しそうな子だと思った。だけど、話してみると楽しかった。それに友達思いな優しい子で、

他人の気遣いもできる。そんな彼女が……


「何言ってる。もう俺たち友達だろ?」


 好きなんだ。登校初日に何だこの感情は。今まで抱いたことのない、幸せな感情。きっとこれを恋と呼ぶんだと、そう思った。


 あれから俺たちはたくさん遊んだ。俺たちは互いにみっちゃん、奏くん、ヒヤくんと呼ぶ仲になっていった。


 楽しかった。こんな日がずっと続くと思っていた。けれど現実は残酷だった。


 “ある事件“が起きたのは、夏休み前の最後の一日だった。

 

 「みっちゃん、そうちゃん、かーえろ!」


 「すみません。私、今日用事があって。先行っていてください。」


 みっちゃんは逃げるようにこの場を去った。


「そうちゃん、尾行けたくない?」


「待て、だめだろ。」


「えー、そうちゃんは女装が好きで、小6までママとお風呂に入ってて……」


 ヒヤが俺の黒歴史をどんどん暴いていく。流石に知られている相手でも改めて言われると恥ずかしい。


「やめろ。行けばいいんだろ。早く行こう。」


「よしきた。」


 俺たちはみっちゃんを尾行けることとなった。


 みっちゃんが向かっていった先は屋上だった。なぜここへ?ここになんの用があるのだろう。

 そして、みっちゃんがとった行動は、地面に紙を置き、その上に靴を置く、そして……フェンスを超え、飛んでいった。


「みっちゃん!」


 頭では理解出来ていないのに、体が反応した。これがいわゆる、体が勝手に動いたってやつか。

 俺はギリギリ手を掴めた。


「奏くん……。」


「戻ってこいよ。また一緒に「すみません。実は私、ずっといじめられていました。 奏くんやヒヤくんがいないときに、屋上この場所で。もう疲れました。離してください。」


「なんで俺たちに言わなかった……。いや、言わない理由も分かるし、俺も気付くいてやれなくて悪かったと思う。けどさ、もう少し頼ってほしかった。俺、お前のこと……」


 そのとき、風が吹いた。そして、俺も一緒に飛んだ。神様は、俺たちに味方してくれないようだ。


「俺、お前のことずっと好きだった。」


 聞こえているかも分からないが、俺は言う。


「そうちゃん!みっちゃん!」


 ヒヤが手を伸ばすが、掴めない。ヒヤにも悪いことしたな。また会ったときにでも謝らないとな。……また、会う……?もう会えない……?そうか、俺死ぬんだな。……死にたく、ないな……。だめだ、もう地面と……。


 こうして俺たちの一生は終えた。



「…ん?ここは……?」


「起きましたか。ここは天界っす。俺ァ天使のイバラっす。今からあんたにゃどうするか決めてもらいます。あんたは今どうしたいっすか。」


「はぁ?天界?じゃあ俺死んだのか?そもそも本当に天界だったら何ができることあるだろ。見せろよ。」


 お腹が熱い。お腹を見ると、いつの間にか剣で刺されていた。


「あああああああぁぁぁぁぁ」


「大丈夫っす。“天界“だから死にませんよ。」

 

 痛みはあるが、確かに死ぬような気がしない。本当にここは天界なのかもしれない。


「分かった。信じるから治せよ。」


 そう言うと、傷口に手を当て、治し始めた。嘘のようだが、本当に見る見るうちに治っていく。


「信じてくれたっすかね。それじゃあ改めて聞きます。あんたは今どうしたいっすか。」


 いきなりよく分からないところに飛ばされて、いきなりよく分からない話をされて。よく分からないことだらけだが、一つだけよく分かることがある。


「俺は、花見瑞希を探しに行く。それだけだ。」



 







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