第4話

 息子がギィギィと読んでいる西暦人は、日によく食べ、よく寝、よく動き回った。

 私や息子がクリアケースを覗き込むと、決まってギィギィと泣いたり、キィキィと鳴いたりした。

 本には適度な運動をさせると良いと書いてあったので、西暦人の動体にリードをつけて軽く散歩させたりもした。

 しかし、よく汁を流す。汁を出すタイミングがまるでわからないので、身につけたがる布は基本的に没収した。

 あまりに没収する時間が長いと、弱るように横たわって鳴かなくもなるので、クリアケースの中にいる時だけ与えることにした。鳴くのは喧しいが、鳴かなくなってしまっては生きてるのか死んでるのか見分けがつかなくて困る。急に家の中で腐っていて欲しくない。


 時折、西暦人の言葉を翻訳して聞いていた。西暦人は起きたり寝たり、忙しい生き物だったので、息子が寝静まってからも起きてるときは多々あった。

 そうしてから、クリアケースの中の音が拾えるよう、ケースの天井あたりに通信機を置いてみる。

 西暦人は「たすけて」「おうちにかえして」「ごめんなさい」「こわい」等の言葉を発していた。

 私はそれを見、悲痛な感情を含んだ鳴き声に耳を傾けて、心地よさを感じた。リビングの端、少しの灯りだけつけた空間で、まどろむように私は西暦人を眺めた。


 ある日、近くに餌を落としても、西暦人が全く手をつけない時があった。

 鳴き声もおかしい。ギィギィとも、キィキィとも言わない。体を触ると、いつもより熱い。

 西暦人の頭の下に布で包んだ氷を置き、体にも分厚めの布をかぶせた。西暦人が起きるまで、見守っていた。

 それ以降、西暦人は「たすけて」「おうちにかえして」「ごめんなさい」「こわい」以外の意味の鳴き声を発するようになった。

 息子は西暦人から発する音のバリエーションにとても喜んだ。

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