第2話
ペットショップに餌を買いに行くよりも先に届いてしまったものだから、ゲージを家に置いてきた。
ペットショップには、西暦人の入ったケースがいくつも並んでいる。家にやってきたペットは、旦那が過去歴に飛んで捕まえてきた野生の西暦人だから、ペットショップで生きてるものとは姿形が違う。
「ママ〜、つるつるしてる」
目当ての品にたどり着く前に、売り物の西暦人に興味を惹かれたようだ。息子が顔をくっつけて覗き込むゲージには、体毛の生えてない種類の西暦人が入っていた。ちょうど、体を丸めて眠っているところだった。
「そうね、家に来た子とは違うわね」
「なんで?」
「ほら、あっちのお家には、手足が生えてない子がいるでしょ?その奥には目や鼻が無い子とか。皮膚の色が鮮やかだったり。色んな個性があるのよ」
ペットショップでは、色んな種類の西暦人が売られていた。
「坊やにも、沢山の個性があるのよ。みんな違うのよ」
ふーん。と聞き流す。息子が満足するまで、しばらく様子を見てあげた。品種改良やら進化についての説明をしそうになったが、口をつぐむ。色々なものに関心を示す時期だ。変に知識を詰め込みすぎず、また次、聞かれた時でいいだろう。
夕方に予定を入れてなくてよかった。子育ては無限の時間が溶けていく。
ペットショップ生まれ、育った西暦人達だからだろうか、家に来たのとは違って、ガラス越しの息子に怯える様子はなかった。眠そうな、不思議そうな目を、ぼんやりこちらに向けている。
家に帰ると、旦那の捕まえてきた西暦人が声を上げる。翻訳機能を使わなくても、怯え、悲鳴を上げてることがわかるほど感情のこもった鳴き声だ。
持ち運び用のゲージから、クリアケースに移動させるために、ゲージを慎重に開けて、いつ逃げ出しても捕まえられるように構える。
西暦人は飛び出すことも暴れることもなく、ゲージの奥で震えて、壁に張りついついた。
西暦人は小さい。生まれたての赤子のような大きさだ。首なんか間違えて掴んでしまった日には、直ぐにポキリと折れて死んでしまうだろう。
慎重に、怪我をさせないように、でも逃さないように。自分に言い聞かせながら、ゲージの中に手を突っ込んで、胴体を握る。入り口で頭をぶつけさせないよう取り出し、持ち上げる。私と目のあった西暦人は震えた声を上げて、股から黄色い汁を流した。
床にびちょびちょと垂れて、あわててクリアケースに入れる。
手洗いうがいをした息子が戻ってきて、あっ!っと声を上げる。クリアケースに乗り込むように体ごと西暦人を覗き込んで、私はそれを制した。
床も、新しいペットも、掃除しなければ。
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