西暦人の自由研究

IMEI

第1話

「ママー。あれ買ってみたい」


旦那が2桁目の妻を迎えた頃、自宅に寄ってくるのは1ヶ月に一度あるかないか程であった。よくある話だと、自分に言い聞かせ、私は定期連絡に「了解」と返事をする。

もうじき、息子は学校の長期休暇に入る。おそらく息子の学校が再び始まるまでは帰ってこないだろう。

父親との思い出作りができないのは可哀想だが、そのぶん私が何かしてあげられないだろうか。そう思っていた矢先であった。


息子が指差した先をじっと見つめ、それでもこれは流石に旦那の許可をもらわなければならないなぁ、とため息をつく。


「ちゃんとお世話できるの?」

「お世話する!」

「生き物を飼うのって、難しいのよ。か弱くて、すぐ死ぬかもしれないし、散歩も、餌だって。やらなきゃいけないことは、いっぱいあるんだからね」

「ちゃんとできるもん!」

「もう…」


脚に巻きつきながら駄々をこねる息子の頭を撫でる。旦那からどうせ既読が付くのは3日後ほどだろうと思って連絡をしたが、しかし、意外なことにすぐに返事はやってきた。


「うーん。パパからの条件がきちゃった。ペットショップで飼うのよりも、お世話が大変になりそう」

大丈夫かしら。と私の漏らした声に息子が元気よく返事をするが、どちらかといえば私自身に対する不安の声だったように思う。


3日も経たないうちに、旦那が家に来た。

「俺も、ガキのうちはオヤジに強請ったもんだよ。生き物を飼って躾けるってのは、一人前の漢になるには通る道っていうかさ」

やや上気した顔でまくしたてる。過去の自分と重ねて、一時的に息子に興味を持っただけか。

 久々に薄化粧をした私は、柔らかい微笑みを顔に貼り付けて、そうね、と返事をする。

捕まえてきたペットを家に置くと、玄関口まで訪問した旦那は、さっとどこかへ行く。

 行き先は、会社なのか。他の嫁の元か。


ゲージを開けると、怯えた目をしたそれは体を縮こませた。不思議な気持ちになる。

進化前の、過去の人間の姿形や歴史は、頭では知っていた。だが、いざ目の前にすると、なんとも形容し難いきもちになる。

息子がゲージの中を覗き込んで、高めの鳴き声が聞こえた。

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