最終話 新たなる旅立ち
墓場から蘇生復活したゴンゾは魔物ならぬ魔獣であった。
両目は赤く光り、口は耳元まで裂け、歯は餓狼の牙のごとく尖っている。
ラモンは銃口をゴンゾの左胸に向け、トリガーを引き絞った。
だが――
銃弾が発射されない。こんなときに弾詰まりを起こしたのか?
ゴンゾは獣のような咆哮を発すると、鋭く伸びた爪でラモンの腹を引き裂いた。
「師匠ッ!!」
叫んだクロエのもとにYAMANEKOが転がった。ラモンの手からはじき飛ばされたのだ。
――だが、これだけは覚えておけ。そのデス・バレットを1発撃つごとに寿命は一年縮む。それがこの弾の代償であり対価だ。
謎の黒ずくめの男はラモンに告げたという。これは単なる弾詰まりではなく、消費する寿命がもう師匠には残されていないからではないか!?
クロエはYAMANEKOを拾うと魔獣ゴンゾに銃口を向けた。
「やめろ、クロエ!」
ラモンは血まみれの腹を押さえ、クロエに向かって声を張りあげた。
魔獣ゴンゾがクロエを見た。
「ブ…ブレンダ……ッ!」
クロエのブラウンの髪を見て、彼女をブレンダと人違いしたようだ。ブレンダはゴンゾを保安官に売った裏切り女である。
「ぎ…ぎざま……許さねえ……!」
今度はクロエに襲いかかってきた。
鋭く尖った爪を振り立てる。
クロエはおおきく後方に飛んでゴンゾの一撃をかわした。
綿シャツが破れ、乳房がこぼれでた。
「ブ…ブレンダ……よくも……このおれを……」
ゴンゾの怒りや憎しみが凄まじい圧力となってクロエに押し寄せる。
――撃て! クロエ!
どこかで声がした。父エディの声だ。
クロエは大きく両足を開くと腰を落とし狙いを定めた。
生き延びるためには撃つしかない。
そう覚悟を決めて荒野を旅したのではなかったか?!
ここで師匠ともども倒れるわけにはいかない。
「ウガガガガガガーーーッッ!!!」
ゴンゾが跳躍した。その影がクロエに覆い被さる。
眼は逸らさない。
恐怖に負けたら最期だ。
クロエはYAMANEKOのトリガーを引き絞った。
充分に狙いを定めて――。
「よくやった、クロエ……」
師ラモンは虫の息であった。
「だが……もうYAMANEKOは使うな……」
「……わかった。使わない」
「い…命を無駄に捨てるな……いいな……わかったな」
それが師ラモンの最期の言葉となった。
「師匠ーーッ!!」
クロエは叫んだ。その声は天に轟きこだました。
アトラスがいなないている。
クロエはラモンを埋葬すると、ゴンゾの死骸を焼いた。火葬にして灰にすればいかな魔物といえども甦ってはこないだろう。
クロエはアトラスの綱を解き、その背にまたがった。
完全に夜は明け、地上に朝の光が満ちている。
父の仇の一人はこの手で葬り去った。
残る二人もこの手で撃ち倒す。
もうためらいはしない。
新たな決意と覚悟を胸に秘めて少女はまた、復讐の荒野へと旅立つのであった。
YAMANEKO ~とある荒野の復讐少女
第一部 黎明編
終劇。
YAMANECO ~とある荒野の復讐少女 八田文蔵 @umanami35
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