第29話 無縁墓地

 全身に銃弾をくらい、ボロ雑巾のようになったゴンゾ・バジーナの死骸は無縁墓地に葬られた。


 その夜――

 クロエはなかなか寝つけなかった。


 ――あんたが人間じゃなくなったからよ!!


 ブレンダの意味するところが気にかかる。

 本当にゴンゾは人間ではないのではなかろうか?

 縛り首の絞首刑に処せられた人間が死にもせず、暴れ出して奈落の底から這いあがってくるなんて考えられない。


 そもそもバジーナ三兄弟とはなにものだろうか?

 悪逆非道のアウトローといった以外の情報はなにもない。

 どこで生まれて、どのように育ったか?

 親はいるのか?

 なぜ無法者になったのか?


 ガタン。


 とりとめもないことを考えていると隣室で物音がした。

 師匠ラモンの部屋だ。

 クロエはベッドから這い出て、部屋のドアを細く開けた。


「!…………」


 ラモンが腰にガンベルトを巻いて玄関ドアから外へでてゆく。吊したホルスターに納まっているのはクロエが彼に預けたYAMANEKOだ。


(YAMANEKOを持ってどこへゆくのだろう……?)


 素早く身支度をすると、クロエはこっそり師匠のあとをつけた。




 ラモンの向かった先は無縁墓地であった。家からそう遠くない距離にある。

 杖をつき、痛む左足を引きずりながら粗末な墓標の前に立つ。

 それはゴンゾ・バジーナの墓標であった。


「隠れる必要はない。こっちへこい」


 あとを尾けていたのがバレていたようだ。ラモンは振り返らずにいった。


「師匠……」


 クロエはおずおずとラモンの傍らに並んだ。


「なぜ、撃たなかった?」


 蘇生し暴れ出したゴンゾをクロエは撃つことができなかった。

 その手にライフルを持ちながら。

 ただ、成り行きを怯えた眼で見つめていただけだった。


「…………」


 クロエはこたえることができない。


「この三年間はなんだったんだ?」


 クロエは西に傾きはじめた月を見あげた。真っ赤な色の満月だ。


「……わかりません」


 絞り出すようにいった。

 いまでは復讐をしたいのかすらわからなくなっている。ともかく自分の手をくだすまでもなく三兄弟の一人は法の裁きにかかって死んだ。

 あとの二人も同様の結果になるかもしれない。


「人間だから撃てなかったのか? それとも……」


 そこでなぜかラモンは言葉をくぎった。


「……それとも……魔物だからか?」


「?!……」


 クロエにはラモンのいっている意味がわからない。


「魔物……? そ…それって……?」


「長い話だ。座れ」


 ラモンは倒れた墓石の上に座った。クロエもその場に腰を下ろす。

 師匠は弟子に向かっておのれの過去を語りはじめた。

 それはにわかには信じがたい、数奇な運命の物語であった。




   第30話につづく

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