第20話 用心棒

 これ幸いと真っ先に逃げ出したのはキツネ顔の男だった。

 毛むくじゃらのゴリラ男は、銃把に手をかけたままライフル男をにらみつけている。


「で…出よう」


 タヌキ顔の男は人数分の酒代を払うと、ゴリラ男を必死でなだめながら引きずるようにして出ていった。


「ラモンなら――」


 マスターが口を開きかけたがクロエは最後まで聞かず、ライフル男のところへつかつかと歩み寄る。


「ラモン・ランバートさん?」


「だれだ、おまえ?」


 クロエは折りたたんだ借用書を開いてみせた。


「借金取りのクロエ・ライド」


「エディの娘か?」


「そう。320デナル、いますぐ返して」


「カネがあったら酒場の用心棒なんぞやってない」


 ラモンがそういうとマスターが横から口をはさむ。


「ラモン、銃を撃つときは床にしろといっただろう。天井にまた穴が空いちまったじゃないか」


「悪ィ」


 さして反省もしてない様子でラモンがあやまる。

 クロエはラモンをじっと見つめると首をかしげた。

 ジャック・サントスは貸し馬屋の主人だった。

 コダー・コルブッチは腕のいい銃職人ガンスミスだ。

 だが、この目の前の人物ラモンにはなにもない。身を持ち崩して酒場の用心棒なんかをやっているロクデナシの一人だ。

 いつものようにカード勝負を申し込んでもいいが、取り立てる代価はあるのだろうか?


「じゃあ、あたしの用心棒になって」


「おれの用心棒代は高いぞ、なあマスター」


 同意を求められてマスターがゆるゆると首を振った。

 それほどでもないらしい。


「よっしゃ、じゃあ勝負といこうじゃないか。博打の負けは博打で返さないとな」


 結局、そうなる流れのようだ。ラモンは壁にライフルを立てかけると、椅子から立ちあがった。

 彼の動きをよく見ると左脚を若干引きずっている。クロエは父親の意図がますますわからなくなった。なにもないどころか障害まで負っているようだ。こんなひとからなにを取立てろというのだろう。


 ラモンはカードを残したまま退散した三人組の席につくと、散乱したカードとチップかき集める。

「さあ、はじめようか」

 促され、クロエがその向かいに腰を下ろそうとした、そのとき――


「バ、バカ、やめろって!」


「離せ、なめられたまま終わってたまるか!」


 戸口でいい争う声が聞こえたかと思うと、ゴリラ男が拳銃リボルバーを抜いてなだれ込んできた。


 銃声が響く。

 先に拳銃リボルバーを撃ったのはラモンだ。まさに抜く手も見せぬ早業だ。

 だが、ゴリラ男の身には命中しなかったようだ。

 ゴリラ男は片頬を歪めるとラモンに向かってトリガーを引き絞った。




   第21話につづく

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