第19話 サルーン

 三枚目の借り主の名はラモン・ランバートという男だ。

 ベアーズサイドタウンという宿場町のはずれに住んでいるという。


 クロエは町の入口にアトラスを乗り入れると、その足で保安官事務所に向かった。ラモンの詳しい所在地を知りたい。


「ラモンならそこの酒場サルーンにいるはずだ」


 星形のバッジを胸につけた男が馬上から顎をしゃくっていう。この男が保安官に間違いない。

 幾分横柄な男で、それだけいうと馬腹を蹴って巡回にでていってしまった。


 クロエは保安官が顎先で示した酒場に足を運ぶとスイングドアを開けた。


 客は三人だけで、中央の丸テーブルを囲んで酒瓶を脇に置き、ポーカーをしている。このなかのだれかがラモンなのか?

 昼間からギャンブルに興じ、酒を呑んでいることからしてまともなオトナには見えない。


 クロエは三人を観察した。

 いかつい体格で体毛の濃いゴリラのような男。

 ひょろりと背が高く顔もキツネのように細長い男。

 それとは対称的に背が低く小太りで顔がタヌキのような男。

 三人はポーカーに夢中でクロエの方には見向きもしない。


 クロエはカウンターに歩み寄り、グラスを磨いているマスターに訪ねた。


「ラモン・ランバートさんはどなたですか?」


 ――と、そのときだった、ジョッキが割れる音がしてゴリラ男が立ちあがった。


「貴様、イカサマしたなッ!」


 キツネ男の胸ぐらをつかみあげる。


「ひぃぃぃーーっ!」


 キツネ男が女のような悲鳴をあげる。


「イ、イカサマなんかしてないよ!」


「ウソつけ、この野郎!」


 ゴリラ男がレッグホルスターの銃に手をかけた、そのとき――


 後方から銃声が響いた。


 ハッとなってクロエは振り向く。

 壁板に背を預けた男が丸椅子に座っている。男の手には一丁のライフルが握られており、その銃口からは硝煙が立ちのぼっていた。


「カネを置いて出ていけ、バカヤロウ」


 ぞっとするような低い声で男はいった。



   第20話につづく

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