第18話 雨宿り

 陽が西の地平に沈もうとしている。

 次の宿場町まで急ぎたいクロエであったが、突然アトラスが立ち止まり、甲高くいなないた。


「嵐がくるのね」


 ――このアトラスは利口な馬だよ。きっと、おまえさんを助けてくれる。


 別れ際にいわれたサントスの言葉が脳裏に甦る。

 アトラスが向きを勝手に変えた。


「どこへゆくの?」


 複雑に折り重なり縞模様を描いている頁岩けつがんの間をアトラスは抜けてゆく。

 庇のように張り出した石灰岩の下に洞窟が見えてきた。

 ここなら雨露を凌げそうだ。


「ありがとう、アトラス」




 雷鳴が轟き、驟雨しゅううが大地をたたく。

 クロエは洞窟のなかで老人から奪い取ったYAMANEKOを見つめていた。

 ハイ&ローに負けたとはいえ、コルブッチはこれを手放したくなかった。


 ――もう一度。もう一度勝負させてくれっ!!


 1回こっきりといったのはコルブッチの方だ。

 クロエは問答無用でYAMANEKOを手にした。

 それはまさに奪い取るといった表現がぴったりの所行で、老人の哀訴を背にして借金取りの少女は工房をでていった。


 ――YAMANEKOを持っていかないでくれぇぇぇーーっ!!


 背中を追いかけてきたコルブッチの声が耳にこびりついて離れない。


(あたしはなにをしてるの? なにをしようというの?)


 父エディは三枚の借用書でおのれを守れといった。仇を討ってくれとはいってない。

 張り出した岩庇から滝のように流れ落ちる雨水を眺めながら、クロエは膝をかかえ背中を丸めるのであった。




   第19話につづく


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