第16話 名銃。
「カードで勝負しましょ」
今度はクロエの方から勝負を申し出た。貸し馬屋のサントスも銃職人のコルブッチもギャンブラーだ。勝負をしたくてうずうずしている。
「あたしが勝ったらこの銃をいただく」
「わしが勝ったら?」
「その借用書はいますぐ破り捨てる。借金はチャラよ」
「わしがにらんだところ、その
「借金というのは利子がつくのよコルブッチさん」
このセリフはサントスのところでもいった気がする。クロエは債務者の都合のよさに辟易する思いだ。
「だからといって元本の3倍以上は取り過ぎ――」
「じゃあ、いますぐ耳を揃えて返して!」
おしまいまでいわせずクロエは被せた。少女の甲高い声が工房の天井を圧する。
「……わかった」
老人は肚を決めたようだ。
クロエは開けたままの引き出しのなかにあるカードを取りだしてテーブルの上に置いた。
「わしがおまえの親父に負けた勝負はハイ&ローだ。それでいいか?」
なぜ世のろくでなしどもは、わざわざ負けたカードのジャンルで勝負したがるのだろう……とクロエはいぶかしるが口には出さず黙ってうなずくのみだ。
ジョーカーを2枚抜き、コルブッチがカードをシャッフルする。慣れた手つきだ。
「勝負は一回こっきり。カードの収集はなし。子が予想をはずした時点で負け確定だ」
「了解」
長居するつもりはない。陽も暮れかけている。クロエは椅子に座り直すと老人の手元を見つめた。イカサマの兆しはない。
コルブッチはいった。
「わしがハイ&ローで負けたのは、おまえの親父ただひとりだ」
第17話につづく
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