第16話 名銃。

「カードで勝負しましょ」


 今度はクロエの方から勝負を申し出た。貸し馬屋のサントスも銃職人のコルブッチもギャンブラーだ。勝負をしたくてうずうずしている。


「あたしが勝ったらこの銃をいただく」


「わしが勝ったら?」


「その借用書はいますぐ破り捨てる。借金はチャラよ」


「わしがにらんだところ、その拳銃ガンはこの荒野にふたつとない名銃だ。わしが借りたカネは200デナルだ。売れば600デナル、いや700デナルはくだらん」


「借金というのは利子がつくのよコルブッチさん」


 このセリフはサントスのところでもいった気がする。クロエは債務者の都合のよさに辟易する思いだ。


「だからといって元本の3倍以上は取り過ぎ――」


「じゃあ、いますぐ耳を揃えて返して!」


 おしまいまでいわせずクロエは被せた。少女の甲高い声が工房の天井を圧する。


「……わかった」


 老人は肚を決めたようだ。

 クロエは開けたままの引き出しのなかにあるカードを取りだしてテーブルの上に置いた。


「わしがおまえの親父に負けた勝負はハイ&ローだ。それでいいか?」


 なぜ世のろくでなしどもは、わざわざ負けたカードのジャンルで勝負したがるのだろう……とクロエはいぶかしるが口には出さず黙ってうなずくのみだ。

 ジョーカーを2枚抜き、コルブッチがカードをシャッフルする。慣れた手つきだ。


「勝負は一回こっきり。カードの収集はなし。子が予想をはずした時点で負け確定だ」


「了解」


 長居するつもりはない。陽も暮れかけている。クロエは椅子に座り直すと老人の手元を見つめた。イカサマの兆しはない。

 コルブッチはいった。


「わしがハイ&ローで負けたのは、おまえの親父ただひとりだ」




   第17話につづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る