第6話 バジーナ三兄弟

 サントスは幼い借金取りをひとまず屋内に招じ入れると客として扱った。

 クロエは出されたコーヒーには口をつけず、テーブルの上に借用書を置いて返済を迫っている。


「120デナルといえば大金だ。すぐには返せんよ」


 サントスはたくわえられたヒゲに隠れた口をもぞもぞと動かす。


「それより噂は本当だったようだな」


「噂?」


「親父さんは撃たれて死んだ。だからお嬢ちゃんが来たんだろう?」


 貸し馬屋というのは宿場町の出入り口にあるだけに、なにかと噂や情報が行き交う場所である。ジャック・サントスは一種の事情通として知られていた。


「犯人を知ってるの?」


 クロエが身を乗り出して訊く。


「噂ではバジーナ三兄弟の仕業だといわれている」


「バジーナ三兄弟?」


「銀行強盗や列車強盗で荒稼ぎをしている凶悪な連中さ」


 サントスの説明によると、三兄弟は町の保安官を殺して翌日、銀行を襲撃した。逃走する際、一頭の馬がぬかるみに足をとられ骨折。そのまま馬を乗り捨て、丘の台地にある牧場を襲って新たに馬を確保しどこかに走り去った。


「パパは……いや、父は行きがけの駄賃に殺されたっていうの?」


 クロエの大きな目が険しさを増している。テーブルに手をつき、いまにも飛びかからんばかりだ。


「落ち着け。おれが殺したわけじゃない」


 サントスがコーヒーをずずっとすすって目をそらす。


「父とその三兄弟は知り合いなの?」


「わからん。おまえさんの親父は名うてのギャンブラーだった。親父さんにカモにされたヤツらは多い。おれもその一人だがな」


 そういうと、サントスは苦そうに顔をしかめた。


「……こりゃ、豆を入れ過ぎたかな」



 第7話につづく












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