第2話 無法地帯

「おまえ、牧師さまに逆らうのはやめろよ」


 教会の授業が終わったあと、ピーターはふくれっ面のクロエにいった。


「逆らってなんかいない。納得いかないから訊いただけ」


 牧草が生い茂るだらだら坂をぐいぐいと先に登りながら、クロエは振り向きもぜずこたえる。


「あんただって知ってるでしょ。町には無法者がはびこっていて、毎日死者が出ていることを」


 クロエやピーターたちの住む丘陵地帯を下った麓の町では銀行強盗や追い剥ぎが多発して一種の無法地帯と化している。保安官は何者かに殺され、町の顔役たちは巡回判事を招いて相談しているとの話だ。


「殺さなきゃ殺される。そんな状態でもひと殺しはダメだっていうの!」


 キッとなってクロエが振り向いた。

 ブラウンの髪が揺れ、ブラウンの瞳がピーターを見据えている。

 ピーターは思わずドキッとなった。

 その場に立ち止まって視線を逸らす。


「ほら、なんにもいえないじゃない」


「いや……」


 そうじゃない……と、いおうとしてピーターは口をつぐんだ。

 言葉を発することができなかったのはクロエの顔が凛として美しかったからだ。幼馴染として遊んだ仲だが、いつのまにかクロエは心も身体からだも自分より先にいこうとしている。


「おーい、大変だあ!」


 そのときだった、ピーターの父親が馬に乗って坂を駆け下りてきた。


「クロエ、エディさんが、おまえのお父さんが!」


 クロエは身を翻してピーターの父親が駆ってきた馬の後ろに乗った。

 その場にピーターを残して馬は走り去る。

 恐れていたときがきた。

 無法者はとうとう、その魔の手を丘の上まで伸ばしてきたのだ。



 第3話につづく









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