YAMANECO ~とある荒野の復讐少女

八田文蔵

第1話 不殺の教え

 その教会は小高い丘の上にあった。

 村の子供たちが集められ、セントグリスコ教会の牧師のもと読み書きや算数、道徳などを教えている。


「ひとを殺してはいけません。殺人は神の教えに反した非常に罪深い行為です」


 牧師がそのようにいうと、花柄のワンピースを着た少女が真っ先に手を挙げた。

 目の大きな年長組の少女で、年のころは12、3。いささか気の強そうな面持ちだ。


「どうしてですか? 牧師さま」


「おい、よせよ」


 隣に座っていたツナギ姿の少年が少女の挙げた手をつかんで下ろす。


「教会の教えは絶対なんだ。疑いを持つことさえ罪だって父ちゃんが——」


「あんたは黙って! 納得いかないから訊いてるんでしょ」


 少女の名はクロエ・ライド。少年の名はピーター・ペーターゼンといって二人は同い年の年長組だ。

 他の子供たちは二人とは7、8才離れていて牧師のいうことにも疑義を挟まず、素直に耳を傾けている。


「ひとを殺さば……」


 1オクターブ声を高くして黒い僧服を着たその牧師はいった。


「おのれ自身も傷つき呪われるからです」


       第2話につづく








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る