第9話『世界のヒロイン、堂々の降臨』
駅で降り、繁華街を越えた先にある桜並木の一本道。
その先の学び舎に向かう若人たちの顔は凛々しく、将来国防を担うものたちの決意が伺える。新入生はそこに不安と緊張の面持ちも加わるので、見ればすぐに分かった。
桜舞う風の奥に、何度もアニメで見た大きな建物がある。
「すげぇ。本物だ……」
五つの闘技場に多くの食堂や教室を備えた日本最高峰の高校は、やはりその見た目からして生徒たちの士気を高めてくれるのだろう。隣を歩く朱莉の目にも凛としたやる気の力が籠っている。
緊張でいよいよ足が重たい。物語の中に入り込むのは、誰に見られるでもないのに落ち着かないものだった。
開いた門の中に一歩踏み込む。目の前には大きな広場だ。
真ん中には大きな噴水。十字に広がる舗装された広い道にはベンチが多く添えられ、早めに来てしまい時間を持て余している新入生や、団らんに耽る上級生など様々な姿が見える。
早めに来ている上級生の中には、今年度に多く入学する著名な新入生目当ての人間も多いだろう。今年は間違いなく粒ぞろいだ。
運よく空いていたベンチに四人で腰かけ、時間が来るのを待つ。
周りを見渡せば、どこかで見たことのある顔ばかり。いてもたってもいられない気持ちに振り回されながら辺りをキョロキョロと見回した。
早速、辺りが色めき立つ。周囲の視線に引っ張られるまま、蒼は校門の方を見た。
「わぁ~、すっごい綺麗……」
刹那が両手を口元に軽く当てながら、感嘆の声を上げている。
いきなり来たなと思いつつも、蒼もその溢れんばかりのオーラから目が離せなかった。
宝石をちりばめたかのような輝かしい銀色の髪。髪一本一本が繊細に輝きを放っている。
上品にハーフアップに結わえた髪に相応しく、芯の通った凛々しい深紅の瞳。
カバンを両手で摘まんでまっすぐ歩くその高貴な姿に、名門の生徒でありながら完全にモブと化した周囲の視線は釘付けだ。
とても同じ制服を着ているとは思えないほどに、彼女は唯一無二の眩い雰囲気を放っていた。経験はないが、街中で芸能人を見かけたらこんな感じなのだろう。
ただでさえ顔面偏差値の高いこの世界で他を寄せ付けない圧倒的に精緻で美麗な顔立ち。
一際大きく輝くその少女のためにこの世界があると言ってもいいほどの、物語に愛された少女。
ちなみに滅茶苦茶強い。
彼女のことも普通に好いていた蒼も、感動で彼女から目が離せなかった。
「あの子って確か、二年前のCJCで優勝した子だよね?」
「白峰 琴音や……ニュースでやってたなぁ。生で見るとめっちゃべっぴんさんやわ」
そんな会話をしている間にも、新入生上級生問わず勇敢な少年たちが彼女に話しかける姿があった。その異常なまでの注目具合に、女子からの嫉妬の視線も痛そうだ。
蒼を含めた四人には思いっきり影が差していた。眩しい。
ふふふと優雅に笑って男子をいなす姿は、それだけでファンを増やすに違いない。
「あの人が綺麗なのは分かるけど、蒼、見すぎ」
朱莉が脇腹を小突いてくる。その目は兄の体たらくを見ていつもの如く不機嫌そうだ。
鼻の下でも伸びていただろうか。
そこで、今度は先ほど以上の声が上がった。最早、ざわつくというより歓声に近い。
霧矢からもおそらく無意識で声が漏れている。
蒼の心臓が高く、鈍く、力強く、脈打った。
(……ついに、来たか。このときが)
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