♯7 白河さんは取られたくない
次の日
「チーフ、昨日のデートはどうだったんだい?」
お刺身を切りながら山上さんが俺に質問をしてきた。
「もー、本当に山上さんはその手の話好きですねぇ……」
「だって気になるじゃない!」
「言っておきますけど、これに関しては黙秘権貫き通しますからね」
「チーフはそういうところ固いわよねぇ。そこまで言うなら、別にいいわよ。今日の白河ちゃんの反応見れば大体分かるから」
ちらっと時計を見るとそろそろ白河さんが出勤する時間になっていた。
ガラララッ
「おはようございます! 今日も宜しくお願いします!」
噂をすればなんとやら、白河さんが声を弾ませて作業場にやってきた。
「……なるほどねぇ」
山上さんが俺を見てニヤニヤと笑っていた。
「白河ちゃんは今日も元気いっぱいだね」
「はい!」
元気に白河さんが山上さんに返事をする。
「チーフも隅に置けないねぇ」
「いいから、早くそこの作業終わらせてくださいよ」
山上さんが笑いながらお刺身を切っていた。
※※※
部門の人はみんな上がり、いつも通り俺と白河さんだけが作業場に取り残された。
それを待っていたかのように白河さんが俺に声をかけてきた。
「チーフ! 昨日はありがとうございました! 色々ご馳走になってしまって……」
「気にしなくていいよ、昨日はお疲れ様」
あの後は二人で市場を見学しながら目についたやつを食べ歩きして普通のデートを楽しんだ。
職場の人とデートするとなると、仕事の話ばかりになるかと思われたが全然そんなことはなかった。
むしろ、仕事以外での白河さんの色んな表情が見れて俺も普通に楽しんでしまっていた。
「そ、それでチーフが嫌じゃなければ次回も……」
「昨日も聞いたよ。また来月シフト合わせられればね」
「はい! 今からもう楽しみです! それじゃ今日も値下げ行ってきます!」
ガララララッ
白河さんがいつも通り値下げの機械を持って、売り場に行ってしまった。
……。
最初はそんなつもりはなかったのに、段々と白河さんの真っ直ぐさに俺も惹かれていってるような気がした。
※※※
「チーフいるー?」
「あれ? 青果の
「親方って言い方やめてくれよ」
青果部門のチーフがうちの作業場にまでやってきた。
普通に勤務しているとあまり交流がない部門なので、青果の責任者がこっちにまでやってくるのは珍しいといえば珍しい。
「これ、うちの若い子から。いいねー鮮魚部門のチーフはモテモテで」
「はぁ」
青果のチーフが可愛いく包まれた手紙を俺に渡してきた。
「何ですかこれ?」
「うちの若い子が君のこといいんだとさ。ほら、今年入った新人のさ。新入社員でも可愛いって有名な子だよ」
「そうなんですか……」
「ちゃんと結果教えろよ!」
そう言って、青果のチーフは自分の作業場に戻っていった。
ピッ
ピッ
ガラララララ
「チーフ戻りました! ってあれ? それどうしたんですか?」
白河さんが売り場から戻ってきてしまった。
俺が持っていた手紙を訝し気に見つめている。
「……あぁ、これ青果のチーフが持ってきてさ」
変に隠したりするのもおかしいので事実をそのままの白河さんに告げた。何よりこの子に嘘をついたり誤魔化したりをしたくなかった。
「……中身何て書いてあったんですか?」
「まだ見てないよ」
「そ、そそうですか……」
白河さんが目に見えて動揺してしまっている。
こんな雰囲気になってしまっていてラブレターとかじゃなかったら恥ずかしいので、白河さんに見えないところでその手紙の封を開けてみる。
“好きです。良かったらこちらの番号を登録してくれると嬉しいです。メッセージ待ってます”
……普通にラブレターだった。
「ち、チーフ……」
「どうしたの?」
「あ、あの……」
白河さんがもじもじと俺の近くにやってきた。
「わ、私、チーフのこと買います……」
「は?」
「チーフに私のことを買ってもらおうと思ったのがおこがましかったです……私がチーフのことを買います……」
白河さんがよく分からないことを口走っていた。
「白河さん大丈夫? 言っている意味が全然分からないから一旦落ち着こう?」
「だ、だって私! チーフのこと取られたくないんですもん!」
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