35.確かな気遣い

『お、お嬢ちゃん、俺の方を睨まないでくれるとありがたいんだが……』


 ミラーナさんの反応にこの間のことを思い出して、私は思わずラフードの方を見ていた。

 しかし、別に睨んでいたつもりはない。私は、そんな怖い視線を送っていただろうか。


「えっと……フレイグ様とは、いい関係を築かせてもらっています」

「あ、いい関係、ですか?」

「ええ、いい関係です。そうですよね、フレイグ様?」

「……そうだな」


 とりあえず、私はミラーナさんにそう答えておいた。

 いい関係、ざっくりとしているが、それが私とフレイグ様の関係性を表すのには丁度いいような気がする。

 別に私達は、険悪な関係という訳ではない。だが、恋愛関係にあるという訳ではない。

 という訳で、いい関係くらいの表現がいいのではないだろうか。別に間違っているという訳でもないので、受け流すのには丁度いい気がする。


「なんだか、はぐらかされているような気がしますね……」

「そうでしょうか?」

「まあ、でもそれなら良かったです。こんなことを言うのは、失礼かもしれませんが、少し安心しました」

「……安心?」


 ミラーナさんの言葉に、私は少し驚いていた。

 私達の関係が良好で安心。その言葉は、思いやりに溢れていたからだ。

 彼女と私は今ここで初めて会ったので、その言葉はフレイグ様に向けたものだろう。つまり、彼女はフレイグ様を気遣っているということだ。

 いきなりそんなことを言われて少し驚いたが、それは当たり前のことかもしれない。知り合いと婚約者の関係が良好なら、それは喜ぶべきことだろう。


「フレイグ様は、色々とありましたから、婚約者とそういう風にいい関係を築けているなら、何よりです」

「……そうだね」

「アーティア様、こんなことは私達が言うことではないとは思いますけど、フレイグ様のことをよろしくお願いしますね」

「は、はい……」


 ミラーナさんは、私に対してそう言いながら頭を下げてきた。それに続いて、ジルースさんも頭を下げてくる。

 私は、少し困惑していた。まさか、いきなりそんなことをされるとは思っていなかったからだ。

 だが、とりあえず頷いておいた。私も、フレイグ様のことはこれからも支えていきたいと思っている。そのため、その頼みは受け取っておこうと思ったのだ。


『お嬢ちゃん……やっぱり、脈ありなんだな?』


 そんな風にいい感じで終わりそうだった所に、ラフードのそんな声が聞こえてきた。

 こういう時に、あまり茶化さないで欲しい。そう思いながら、私は彼の方に視線を向けるのだった。

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