36.過去の戦いで

 ミラーナさんとジルースさんと別れて、私達は町の散策を再開していた。

 当然のことながら、私は二人とフレイグ様との関係が気になっている。

 しかし、それを聞いていいものなのだろうか。これもまた複雑な問題だと思うので、少し迷っているのだ。


「……俺とあの二人が、どういう関係が気になっているのか?」

「あ、はい……そうですね。気になっています」


 そんな私の様子を察したのか、フレイグ様はそんなことを聞いてきた。

 それに対して、私は素直に答えることにした。隠していても、仕方ないことだと思ったからだ。


「……あの二人と俺は、同じ被害を受けたという関係なんだ」

「同じ被害を受けた? それは、どういうことですか?」

「……俺の両親が、どうして亡くなったか知っているか?」

「えっと……詳しくは知りません。ただ、魔族との戦いの中で亡くなったと……」

「ああ、それは間違っていない。ただ、その魔族との戦いは、少し特別なものだったんだ」

「そうなんですか?」


 フレイグ様は、少し躊躇うような素振りを見せながら、説明を始めた。

 それは、彼の両親の死も関わっていることのようだ。やはり、かなり深刻な問題だったらしい。


「かつて、人間の世界に侵攻してきて……この町に来た魔族達は、戦いのためにあることを行った。人質を取ったんだ」

「人質?」

「ああ、町にいた子供達を捕まえて、戦いを有利に進めようとしたんだ。その人質となっていたのが、俺やあの二人だ」

「それは……」


 フレイグ様が語り始めたのは、この町の悲しい戦いのことだった。

 子供を人質にして、戦いを有利に進める。それは、非道な作戦だ。

 その作戦の被害者となった子供達。それが、フレイグ様やミラーナさん、ジルースさんということであるようだ。

 それは確かに、仲間や同胞といえるような関係なのかもしれない。事情を説明しなければ、確かに結構説明が難しい関係性だ。


「その俺達を助けるための作戦の中で、俺の両親は命を落とした……言っていなかったかもしれないが、二人とも戦えたんだ」

「そうだったのですね……」

「……命を落としたものの、二人は人質を救った。俺は、そんな二人のことを誇りに思っている。故に、俺は二人の息子として、魔族との戦いに参戦することを決意したんだ……いや、それは蛇足か」

「いえ……」


 フレイグ様の両親は、英雄といえるような人達だったようである。

 二人の活躍で、子供達が救われた。それは、とても偉大なことだ。

 ただ、その結果として命を落としてしまったのは、悲しいことである。フレイグ様にとって、それは本当に絶望的なことだっただろう。

 それでも、両親の意思を継ぎ、魔族との戦いに参戦した彼は、すごいとしか言いようがない。フレイグ様の話を聞いて、私はそんな感想を抱くのだった。

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