29.聞こえなくても(ラフード視点)

 俺は、お嬢ちゃんの部屋を後にして、フレイグの部屋に向かっていた。この時間なら、あいつは執務室にいるはずだ。

 結局、お嬢ちゃんはあいつへの好意を認めなかった。どう見てもそういう反応だったと思うのだが、違うのだろうか。


『邪魔するぞ』


 そんなことを思いながら、俺はフレイグの執務室に入った。

 すると、机の前で書類に囲まれているあいつを発見する。


「平和か……」

『うおっ、いきなりなんだよ……』


 そこで、フレイグは何か意味深なことを呟いてきた。

 こいつが独り言なんて、中々珍しいことである。一人の時も誰かと一緒にいる時も無口な奴なので、俺は思わず驚いてしまう。


「婚約者か……そんなものはどうでもいいと思っていたが……」

『な、なんだ……今度は何を言っているんだ?』


 俺が平静になる前に、フレイグはまた何かを言った。

 その言葉は、お嬢ちゃんに関することだった。もしかして、こっちも脈ありなのだろうか。


「もっとも、それをもたらした者に対して、容赦する訳にはいかないな……」

『おっと……』


 フレイグは、またも独り言を続けた。

 その言葉に、俺は表情を変えることになる。

 フレイグとお嬢ちゃんの婚約をもたらした者。それは、お嬢ちゃんの継母だ。

 その人物が何をしたかは、俺も聞いている。お嬢ちゃんの継母は、信じられないくらいひどい奴なのだ。


『フレイグ、当然容赦なんていらないぞ。徹底的にやれ。いくら前妻の娘だからって、野盗をけしかけるなんてまともじゃないんだからな』

「さて、どうするべきか……」

『うん? それは、報告書か? おおっ、しっかり証言が得られているんじゃないか。それで攻めろ、フレイグ!』


 フレイグの手元には、部下からの報告書らしきものがあった。

 そこには、お嬢ちゃんの継母と野盗が繋がっていたという証言が得られたと書いてある。

 それなら、それを足掛かりに攻めればいいだろう。これで、悪い継母も追い詰められるはずだ。


「証言は得られた……だが、何の対策もしていないとは考えにくい」

『む? それもそうか……確かに、難しい問題かもしれないな』


 フレイグの言葉に、俺は頷いた。確かに、悪い継母もその辺りの対策はしているかもしれない。それなら、真正面から戦うのは得策ではないだろう。

 しかし、どうやったら、継母を追い詰められるのだろうか。それは、中々難しい問題だ。

 俺は、フレイグとともに頭を悩ませる。お嬢ちゃんの継母は、絶対にとっちめないといけない。その方法を俺はフレイグとともに考えるのだった。

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