30.呼び出されたのは

 私は、フレイグ様に呼び出されていた。なんでも、話したいことがあるそうなのだ。

 恐らく、これからのことを話し合うのだろう。婚約者なのだから、話は積もる程あるはずだ。


「お前を呼び出したのは他でもない。お前の継母のことについて、相談したいんだ」

「継母……」


 フレイグ様の言葉に、私は驚いた。

 私の継母。彼女のことは思い出すだけでも腹が立ってくる。

 彼女には色々とひどいことをされた。本当に悪い思い出しかないのだ。


「まず前提として、お前を襲った野盗はやはり彼女と繋がっていたようだ。奴らの仲間から証言が得られた。状況から考えて、虚偽とも考えにくい」

「そうですか……」


 あの野盗が継母の差し金だった。それは、紛れもない事実だったようだ。

 だが、それは別に驚くようなことではない。元々予想していたことである。


「はっきりと言って、これは許されることではない。お前の継母は、罰を受けるべきだ」

「ええ、そうですよね……でも、きっとそれは簡単なことではないんですよね?」

「ああ、ほぼ確実に隠蔽工作はされていると考えた方がいい。その罪を暴くのは、難しいといえるだろう」


 フレイグ様の言う通り、何かしらの隠蔽工作はしているだろう。あの人だって、馬鹿ではないのだから、わかりやすい証拠なんて残していないはずだ。

 そうなると、頼りになるのは野盗の証言くらいである。それは、あまり信頼できる証拠とはいえないだろう。侯爵夫人と繋がっていると野盗が言っても、適当なことを言っていると思われるのが落ちだ。


「故に、俺はこちらも対策を練らなければならないと思った。そこで、野盗の残党を使うことにする」

「野盗を?」

「ああ、残党には、お前の暗殺が失敗したと侯爵夫人に伝えてもらう。その後、彼女がどのように動くかはわからないが、何かしらの動きはあるはずだ。そこを抑えようと思っている」


 フレイグ様は、私の継母を追い詰めるために野盗を利用するつもりのようだ。

 それは、確かに有効な作戦かもしれない。だが、それはいいのだろうか。野盗を利用するというのは、継母と変わらないような気がする。


「野盗を利用するなんて、本当に大丈夫なんですか? 私の継母と同じことをするなんて……」

「こちらは、減刑の代わりに協力してもらう手筈になっている。これは、正当なる取引だ。お前の継母とは違う」

「でも……」

「お前の言いたいことはわかっている。だが、こうでもしなければ、お前の継母を追い詰めるのは難しいんだ」

「それは……そうかもしれませんが」


 フレイグ様も、この作戦を心から良いとは思っていないのだろう。その表情が、それを物語っている。

 それなら、やはりやめておいた方がいいのではないだろうか。野盗を利用する。そこには、必ずリスクがあるはずだ。

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