28.わからないこと
フレイグ様と朝食を取ってから、私は自室に戻って来ていた。
ラフードも、私について来ている。なんでも、私と話したいそうだ。
それはきっと、朝のことがあったからだろう。
『お嬢ちゃん、もしかしてフレイグのことが好きなのか?』
「……」
彼は、私に対してにやにやしながらそんなことを言ってきた。
こう言われることはわかっていたことである。朝のことがあってから、彼はずっと楽しそうに笑っていたので、そういうことだと思っていたのだ。
「ラフード、もっと言いたいこととかないの?」
『うん? それ以上に重要なことはないだろう?』
「色々とあると思うんだけど……」
朝フレイグ様が笑顔を見せたというのに、ラフードはそれにまったく触れなかった。
もちろん、彼にも気恥ずかしかとか、区切りがついたから敢えて触れないとか、意図はあるのだろう。それが、理解できない訳ではない。
しかし、その代わりに言われるのがこんなことでは、私も文句の一つも言いたくなってくる。
『それで、どうなんだ?』
「いや、別にそういうことではないと思うんだけど……」
『でも、あいつの笑顔に照れていなかったか?』
「それは、ギャップがあったから……」
『まあ、確かにあいつが笑顔になるのは珍しいから、そう思うだろうな……』
私の言葉に、ラフードは頷いていた。
だが、多分彼は未だに私がフレイグ様に好意を抱いているだとか思っているのだろう。その表情から、それが伝わってくる。
「ラフード、本当にそういうことではないからね?」
『いやいや、別に俺にくらい本当のことを話してもいいんだぜ?』
「いや、違うから」
ラフードは、私の話をまったく聞いてくれなかった。
本当に、別にそういう訳ではないのだ。確かに、フレイグ様の笑みには驚いたが、それはそういう意味ではないのである。
『お嬢ちゃん、そうやって否定すると益々怪しくなっていくぜ?』
「怪しくなっても、本当に違うんだから、肯定する訳にはいかないよ」
『む……中々手強いな』
ラフードは、私がフレイグ様のことを好きだとどうしても認めさせたいようだ。
その言葉に、私もだんだんと自分がわからなくなってくる。実際の所、私はフレイグ様のことをどう思っているのだろうか。
『お嬢ちゃん、フレイグはいい奴だぞ? きっとお嬢ちゃんを幸せにしてくれる。まあ、冷たい所もあるが、少なくとも女性を泣かせるような奴じゃないと、俺は思う』
「……」
『お嬢ちゃん?』
フレイグ様は、私のことを助けてくれた。優しくもしてくれた。
そんな彼に対して、私は特別な感情を抱いているのだろうか。ラフードの言葉を聞き流しながら、私はそれに悩むのだった。
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