27.考えるべき策(フレイグ視点)

 俺は、アーティアと食事を取ってから執務室に来ていた。

 辺境伯として、色々と仕事はある。だが、その主な役割というのは、書類の処理だ。

 それを少し億劫に思いつつも、こういう仕事だけが増えるのは平和の証だと、少し嬉しくもなってくる。


「平和か……」


 俺は、ゆっくりとそう呟いていた。

 俺は、友であるラフードとともに平和を勝ち取った。その結果、あいつを失ってしまうという大き過ぎる損失があったが、それでも二つの種族の戦いを終わらせることができたのだ。

 だが、俺はその平和を今まで噛みしめることができていなかった。失ったものの大きさが、俺にそうさせることを躊躇わせていたのである。

 しかし、今日は少しだけその考えが変わった。それは、俺の元に現れた婚約者のおかげである。


「婚約者か……そんなものはどうでもいいと思っていたが……」


 俺は、婚約者に関して特に考えたことはなかった。貴族として当たり前の役割だけを果たしてくれるなら、誰でも良いと思っていたのだ。

 だが、今は彼女で良かったと思っている。この巡り会いに、俺は感謝しなければならないだろう。


「もっとも、それをもたらした者に対して、容赦する訳にはいかないな……」


 俺は、とある書類を見ながらそんなことを呟いた。

 アーティアの継母は、俺を冷酷無慈悲な辺境伯だと知り、彼女を嫁がせた。嫌がらせによって、俺と彼女は婚約することになったのだ。

 それだけなら、百歩譲ってまだ良かった。しかし、彼女の継母はもっとひどいことをした。それは、大きな問題である。


「さて、どうするべきか……」


 俺の元には、部下からの報告が届いていた。それは、あの野盗達に関することだ。

 アーティアを襲った野盗一味は、俺があそこで屠った者達だけではなかった。まだ仲間がいたのである。

 その仲間を、俺の部下が捕縛した。本来なら生かしておく意味はないのだが、今回は話を聞かなければならなかったからだ。

 その結果、情報は得られた。やはり、彼女の継母から依頼されていたようである。


「証言は得られた……だが、何の対策もしていないとは考えにくい」


 野盗の証言だけで、侯爵夫人を捕まえられるかどうかは、怪しい所だ。

 当然のことながら、隠蔽工作はなされているだろう。正面から問い詰めても、はぐらかされるだけだ。

 そのため、何か対策を考えなければならない。アーティアの継母が逃げられないように、何か確固たる証拠を掴む必要があるだろう。

 こうして、俺はしばらく策を練るのだった。

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